Zero field ~唄が楽園に響く刻~
そして、フォミニンは、盾を思い切り下にいるサイスに投げた。
サイスはとっさに盾で防ぐものの、体制を崩してしまってよろけた。
フォミニンの盾は、明後日方向に飛んだかと思うと、魔力の糸できれいにフォミニンの手元に戻っていってしまった。
休む間もなくフォミニンは何度も盾を投げつける。
「高いな」
「高いわね」
リョウとツイーリは見上げてそう呟いていた。
フォミニンは1回の跳躍で、かなりの高さで跳んで行ったので、サイスは手も足も出ないのである。
4回目の盾が襲い掛かってきた時には、サイスは幾つか怪我をしていた。
サイスは盾を掴もうと何度も試みていたのだ。
もちろんそう簡単に回転している盾を掴むなんて事はできない、それだけでなく、盾の縁は刃になっていて斬れてしまう、それによりできた傷は多い。
しかし、4回目のその時、やっと掴む事ができ、離すまいとしっかり掴んでいると、魔力の糸で盾を引き戻そうとしたフォミニンが勢いよく落ちてきた。
フォミニンよりサイスの方が幾らか重かったためだ。
そして、それを見上げていたサイスが思わず言葉にしたのは、
「黒!」
フォミニンはハッと思いスカートを抑えて下着を隠した時、サイスに抱きこまれて首元に槍を突きつけられていた。
1度ならず2度までも、皆は思いも寄らぬ幕引きに呆然とするしかなく・・・。
「勝者…………サイス・リストレンテ」
審判はもうやる気の見えない声でそう宣言した。
「これであたしの全ては・・・貴方のものよ」
と抱き込まれたままフォミニンはそう言ってサイスの胸に顔を埋めていく。
「勝ったしデカイ女も出来たし今回の戦いはいい事ずくめです!」
そう大きく笑うサイスに、誰もが面倒くさそうな目線を送っていたのは言うまでもない。
.おまけ(本編とは関係ないよ).
「クロナ」
メガネをかけた少年がテーブルで頬杖をついて向かいで、果汁酒を飲んでいるクロナに呼びかける。
「ん?なぁに?」
「俺っていつ出番来るの?もう12唱きてるんだけど?」
「ん〜・・・今ガイル出てくるでしょ〜?リュウもリョウとの戦いで出たし〜、私もショウ達の目の前に出ていったし〜。
ヴンって今まで一切出てないよね、小さなカットにすら」
クロナが指折り数えて、ヴンに笑顔でそう告げる。
「だよな〜」
とテーブルに突っ伏すとその上に10歳弱ほどの少女が乗った。
「ヴンだけじゃないよ〜エイナーも出てないよ〜、と言うよりヴンより名前すら出てないよ〜」
「乗るな」
エイナーのセリフを無視してヴンが命令するもエイナーもそれを無視する。そして、二人して深いため息をついた。
「甘いです!」
「「「え?」」」
急に扉が開かれ、そこに立っているピンク色の髪の少女がそう叫ぶ。
「私なんて名前すら出ていないんですわ!ちょくちょく出ていてもそれじゃ意味がないんです!」
その叫びに3人は納得したように「あ〜」と言って小さく頭を上下させ、ヴンとエイナーが
「それなら、まぁいいか」
「そうだね〜」
と言う中一人が涙目で「よくなーい!」と叫んだのがその部屋に木霊した。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹