Zero field ~唄が楽園に響く刻~
「よくそんなに数えましたね…」
暇だからな、とリョウが返事をして寝転がって目を瞑った、とうとう寝るようだ。
サイスも自分をバカらしく思ったのか、リョウの隣に寝転がった。
「リョウの天然って結構人に影響を与えるみたいだよ…」
とイナが苦笑した。
フィルとショウがそれを聞いて、「「かもな」」と言って小さく笑った。
イナは毛布に包まってフェニックスを頭に乗せて座っている。
フェニックスはイナの頭の上が最近のお気に入りらしく、いつもそこに座っている。
イナの頭の上で座りながら寝息をたてているフェニックスを、イナが起こさないように横に座らせて寝る事にしたようだ。
「おやすみ〜」
「ああ」
ショウが返事するとイナは目を瞑った。
今起きているのはフィルとショウだけだ。
ショウ達は、草原を歩いている途中で、日が傾き始めたので1本だけ立っている低い木を中心に夜を明かす事にしたのだ。
神殿までは、もう少しで着く。
番人たちと戦闘にならないと言う保障もないのでここで休むのにはちょうど良かったのである。
「なぁ、フィル聞いていいか?トリガーの事で」
ショウのちょっと興味ありげな声で聞いた。
「ん?俺の答えられる事ならいいぜ」
「んじゃ、そのトリガーの名前と石を教えてくれ」
「ん?そんな事か。
これはトリプルマーズ。そして、石はルーンデインだ」
とフィルの説明をし終えると、ここぞとばかりに欠伸をして寝転がった。
石はトリガーの希少性を示している。
上から、ラストバーン(終焉石)、レイズサン(蘇光石)、ルーンデイン(月照石)、クライズミスト(曇透石)、プラントアース(植物石)となっていて、どれも珍しい石なのだ。
それによりどれにも魔力をコントロールする力を持っており、それを利用したものがトリガーとなる。
「おやすみ〜」
「それだけかよ…」
と言うショウの呟きを無視してフィルは眠ってしまった。
ショウはため息をついてから夜空を見上げた。
「明日は嫌な予感がするな…」
「あはは〜、つまりぃ〜」
「貴方達はGeneretorで」
「神玉の力を開放したいから」
「ここを通してほしいって〜」
「証拠は?」
と言う5人の顔の似た姉妹が順序良く長女から順に話す。
見ている方からすると結構これは面白い光景だ。
「だから、私がガーディエッツの姫だと…」
「だからねぇ〜それじゃぁ残念な事に、もう姫ってことを確認する術がなくなっちゃってるんだって〜」
サリナの抗議する声に、番人5姉妹の長髪ストレート、剣を使うシルフィー・アルのデステニアの長女が気の引き締まらない声で告げる。
そう、さっきからそのことで話し合っているのである。
サリナは、事実姫であるのだが、ガーディエッツが滅びた今、それを確認する術がない。
王家の紋章を示しても、「生き残りはいない」と知らせを受けているこの姉妹にとって、それはただの紋章でしかないのだ。
「とても失礼なのですが、その紋章が盗まれたものじゃないと言う証拠がない以上、ここを通すわけにはいきません」
番人5姉妹のセミロングのメガネ、槍を使うシルフィー・タットのデステニアの次女はそれが義務とばかりにすまし顔で言葉を発する。
「何よ!そこまで徹底しなくちゃいけないの?!」
テンがとうとう叫んでしまう。
「そんな事を言われても、私達はこれが仕事だし、これくらい徹底しないとセントバイトに悪用されるわ」
番人5姉妹のショート、斧を使うシルフィー・マリーのデステニアの三女が不機嫌そうに眉間にしわを寄せて言い返す。
そこにショウが、いい事を思いついたように手を上げて
「俺達もここで立ち往生するつもりはないんだ、そこでだ、俺とテン、そしてイナとリョウはデステニアだからいいって許可が下りてる。
ならいっその事さ、勝負しないか?1対1の差し向かいバトル。
先に3勝した方の勝ち、俺らが負ければ、諦めるし、俺らが勝ったら、通す。
どうだ?面白そうじゃないか?」
昨日は穏便に行こうと考えていたショウは、なるべくすぐ終わり、被害の少ない方法を取ろうと言ったのだ。
「そうだねぇ〜…うん、悪い提案じゃないね〜」
番人5姉妹のポニーテール、盾を使うシルフィー・デリスのデステニアの四女が、これはいいと何度も頭を上下させる。
「よし、そうと決まったら、勝負の順番とルールを決めようぜ」
フィルがにやっと笑い、そう言うと、
「勝負方法、1体1他の制限は無し、勝利条件、相手が降参する、気絶させる、もしくはチェックメイト」
番人5姉妹のツインテール、弓を使うシルフィー・シロのデステニアの末っ子は淡々とした感情を感じさせない口調でルールを言い切った。
チェックメイトとは、こういう勝負事の際、相手の隙を突いて首元に武器を突きつける事を言う。
「だ、大丈夫なんですか?!こんな事して!もし負けたら…」
とサイスの不安の声をイナがジッと睨んで黙らせた。
「負けたら…なんて事にはならないよ、私達が勝つんだから」
自信満々に言うイナの顔には確信めいた表情さえ浮かべている。
サイスはまだ不安の色を隠せないが、信じる事にし黙った。
そして、ショウを中心に簡単な会議を開かれていた。
「あ、私達は、イブから順にいって、最後私だから〜」
と余裕の声が、長女から発せられた。
長女から順に、ファナ・ツイーリ・リノア・フォミニン・イブとなっていて、年齢も18・17・16・15・14となっている、ついでに皆、髪の色はクリーム色だ。
「余裕ね〜…んじゃ、フィルとサイス除外した5人でいいわよね?」
とテンが、関心の声を上げてから、戦う人を勝手に決めた。
もちろんそれに同意するのはその5人だけでフィルもサイスも抗議の声を上げる。
「って、俺を出させてくださいよ!」
「って、俺が出なくてどうするんだよ!」
「…誰か交代したい人いる〜?」
とテンがどうもめんどくさそうに見回すと一人手を上げる者がいた。
「第1戦、番人五女のイブ・リアーテイント、Generetorのテン・アスロンス」
ショウがとりあえず審判をする事にし、大きな声でそう言うと一息ついた。
「お手柔らかにお願いします」
「めんどくさいんだけど…ま、よろしくね」
二人が挨拶(?)をかわすのを見届けるとショウは剣を上に放り投げた。
勝負の合図は剣が落ちた音、皆はそれを静かに見守る。
剣は何回転もして落ちてきた、ショウが投げる際に無駄に回転を加えていたからだ。
剣の刃地面に突き刺さる音は、一瞬でしかなく、その音は二人の地面を蹴る音でかき消されてしまった。
二人はほぼ同時に、後ろに跳びお互い遠距離で勝負するつもりだった。
「え?」「は?」
サイスとフィルは少し間抜けな声を出して目の前で起きた光景を見ていた。
二人は後ろに跳び、そのまま弓で矢をすごい速度で幾つも放っていた。
二人が次に地面に足が着く時には、撃ち出された矢の数は30を優に超えていた。
イブの膨大矢の量に比べて、テンは少なめに矢の軌道を変化させて少ない量で全てを相殺した。
その後も二人は走りながら矢を打ち合い続け、初めに変化を見せたのはテンで、一定距離を持って走り続けていたのを、急にイブの方に走っていったのだ。
その変化に眉一つ動かさずに、イブもその場に止まり対応した。
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹