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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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シャンデリアの上に居た金髪の少年がそう笑っていた。
「あいつ、俺足元にも及ばないじゃねーか」
と言ったところで、王座に座っていた男が立ち上がりナイフを投げた。
少年はそのナイフを指一本ではじき笑いを止めなかった。
「お前もいい加減にせんとオメガの復活の前に殺すぞ」
男が低い声でそういうと、少年は「ふん、つまらん」と言って肩をすくめた。
銀髪の男はあきれて王室から出ることにしたのか、腕を組んで立っていた場所から一瞬で扉に移動していた。
「どうでもいいが、俺は行ってくるからな、イーグルと青の特攻を使わせてもらう」
と言い残し、答えを気かずに出て行ってしまった。
ついでに、「よかろう」と言ったのは出ていってからの事である。

「あぁ、もう今日は散々です!」
少女はとうとう溜まりに溜まったストレスをここぞとばかりに叫んで宿屋の食堂へと入っていった。
「ま、まぁまぁそんなに機嫌を損ねないでくださいよ・・・」
後ろを20代前後の男がなだめながら付いていっている。
もちろん、少女の叫びは食堂に響き渡っていたので、2人は注目の的になっている。
どうやら先ほど宿の受付の時に色々あって、とうとう我慢の限界に達したのだろう。
少女は淡い水色の髪を揺らし、空いている席に向かって歩いていると、後ろから争うような声がする。
少女的にはもう関わりたくは無いのだろうが、振り返るとどうも無視するわけにはいかない状況に、眉間にしわを寄せて言い争っている2人の間に割って入る。
「ちょっと失礼、この者のご無礼は本当に申し訳ございませんでした」
と、言い争っている男2人の内の30代と思われる体格のいい男の方に丁寧に頭を下げ、くるりと一回転し後ろから着いてきていたはずの男に向き直る。
「でぇ?貴方そこに正座なさい。
 そして、貴方の付いてきた訳をいって御覧なさい!
 私を困らせるために付いてきたのかしら?
 違うわよねぇ?私を支え一生仕えるんじゃなかったのですか?!」
男は素直に正座をして、少女の説教を聴いている、と言うか怖くて俯いてビクビクしている。
これを目の当たりにしたさっきの体格のいい男もその気に中てられてしまい、さっきまで言い争ったにもかかわらず、説教を受けている男を解放するように言っている。
その出来事が『水の大暴走』と言う名でエグレイノン中に、1晩で広がったのは言うまでもない。
そして、気が済んだ少女は、さっき行こうとしていた席に向かう途中で、声を掛けられた。
「ちょっと貴女〜、こっちこっち、2人分空いてるわ」
といって手招きするのは、黒い髪を揺らす娘である。
「あら、貴女もここに泊まっていたのですか?」
さっきの声とは裏腹に、いつも通りの冷静な声で娘の向かいに座る、男も少女の隣に座った。
「シュレンには会ってきた?」
少し沈み気味の声で娘は少女に、最初の質問を投げかけた。
「明日、会いに行きます、それに、なんとなくですが、私達の・・・」
「ご注文は、いかがなさいますか〜?」
「・・・のように思えるのです。だから・・・」
「それじゃ、適当にこの定食を2つお願いします」
「・・・に行くつもりですので心配しなくても・・・」
「かしこまりましたー」
「・・・なのです」
と、それを受け取るように、真剣に答える少女。
「ふ〜ん、それじゃ、私は明日帰る・・・」
「あ、やっぱりすみませーん!」
「「うるさい!」」
少女は手刀を男の頭にかまし、娘は持っていたスプーンを弾いて思いっきり当てた。
「もうちょっと静かにできません?」
「私達とても大事に話してるんだけど?」
「ひ、ひぃぃぃぃ」
二人の圧力に男も男のウェイトレスも恐れるしかなかった。
・・・とりあえず、注文が着てから食事をしながら話す事にした。
「改めて言わせてもらいます」
と改まって、少女が口を開いた。
娘は促すように手で示し、頷いた。
「明日、シュレンと言う方達に会いに行くつもりです。
 それも、私達の与えられた目的の方達・・・」
ズルズルズルズル・・・
「?!・・・え・・・えっとですね・・・こ、これはそのこうやって音を立てて食べる料理でして・・・」
後ろにどす黒いオーラをまとった2人に睨みつけられた男はしどろもどろに言い訳をする。
「「そんなものを頼まないで!」ください!」
結局、話はその食後にする事にし、また改まって、少女が話し出した。
「私達の目的の方達と重なると思うので、心配しなくても会いに行きます」
「それじゃ私は明日にでも帰らせてもらうわ」
と、思った以上に長引いてしまった話を打ち切る事にした。

「・・・私は、アレの思い通りになんて・・・ならない、いえ、なりたくない、オメガ兄さんの残した唄・・・それを受け継いだシュレン・・・、
 私は絶対にこの悲しみの渦を断ち切るための道を、たとえ過程が間違っていても、シュレンが世界を正してくれるように、私が道を作る」
そう呟いて、部屋の窓に座り込んでいるクロナは星空を眺めていた。
少し離れた酒場では、まだ明かりがともされてはいるものの、もうすっかり夜になっている。
もうほとんどの住民や旅人は、明日の為に心身を休めるために寝静まっている。
そんな中、月明かりに照らされた一人の紅い少年が夜空を眺めながら歩いている。
「・・・シュレン・・・」
クロナは、声を掛けようか一瞬考えてから、ふわりと浮かび上がり、下にいるショウの目の前に降り立った。
「シュレン、こんな時間にどうしたの?眠れない?」
とクロナは不安そうな声でショウに問うた。
「クロナ・・・俺はシュレンじゃない、俺は“世界の意思を受けた 純律唱者(ゼロシンガー) にして、唯一無二のオメガクロス習得双剣士、ショウ”」
ショウは真剣な眼差しでクロナを見据え、落ち着いた口調でそう言い切った。
クロナは一つ耳を疑う言葉が出たことに気が付いた。
「オメガクロス・・・?何故、貴方それを知って・・・?記憶は完全に消されて・・・」
「ショウが生まれる前の俺のとても大切な人が教えてくれた、そんな気がするんだよ」
ショウはどこか懐かしむような声で、空を仰ぎながらクロナに優しく答えた。
クロナは、何かとても落ち着いたような表情となり、ショウを見つめていた。
少しして、クロナはショウに習うように空を仰ぎながら両手を広げて口を開いた。
「シュレン、いいえ、ショウ、貴方は貴方の目指す正しいと思う道を行きなさい、私は私の行くべき道を行くわ。
 次会う時は、敵として対峙するかもしれない、その時は私、本気よ」
「俺も、きっと本気なんだろうな、でもきっと悔いもない、何故だかそう思うんだよ・・・姉さん」
ショウは柔らかな笑顔をクロナに向けながら呟いていた。
クロナも笑顔で頷いて、どうでもいい事をポツリと呟いた。
「ショウの髪の色は、私とショウのお母さんの髪の色なのよ」
「ん?もう一人俺達の兄がいなかったっけ?」
とショウもどうでもいい会話に乗る事にした。
「それは、私達が生まれる前のもう一人のお母さんから生まれた、銀髪の人らしいわ、兄さんはその方の色なのだそうよ」
「それじゃ、姉さんは、アレの色ではずれだな」
「あ、それひどーい!気にしてるのにー!」
そんな兄弟の笑顔の会話だった。