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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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フィルが叫ぶ、「えへへ〜」とイナが照れながら頭を掻いているが、そろそろ魔物の警戒心は頂点に達したのだろう。
一気に襲い掛かってきた。しかし、ほとんどの魔物は、にやりと笑ったイナによって胴体と頭がバラバラになっていった。
ショウとリョウは林に突っ込んでいき、核である巣を直接壊しに行った様だ。
フィルも次々飛んでくる魔物を打ち落としていく。
イナの周りには、大量のナイフが浮いていた。
その浮いているナイフは魔物に向かって飛んでいき、一気に大量の魔物を切り裂いていく。
こんな戦い方ができるのは世界にイナくらいなものだ。
しかも、これによる魔力の消耗がかなり少ない、基本的に魔力での物体複製はナイフほどの大きさのものでさえ、10本作れば結構疲れる。
物を追跡で飛ばす、これも魔力の消費はただじゃない。
大量に作り出し敵に追跡で飛ばしているのだから常人にはできない芸当なのである。そして、テンはと言うと・・・壊れていた。
「あはははは!オラ!死ね!死ね!ゴミどもがぁ!」
などと叫びながら魔物ごと貫き林に矢を打ち込んでいる。
イナもフィルも少しの距離を置いて戦っていた。
ついでに、時々ショウ達を矢が襲った事は言うまでもない。

その日の夜、テンは木の根元で包まって寝ている。
その横で、ショウはテンと一緒の毛布を被っている。
さっきまでテンは、いじけていた。
それをずっと慰めていたのがショウである。そして、テンは結局ショウの肩に頭を乗せて眠ってしまった。
こういう光景はよくあるのだが、この時珍しかったのが、ショウもテンの頭に軽く頭を乗せて熟睡してしまっている事である。
ショウは基本的に熟睡することはない。だが、1ヶ月に1日くらいは熟睡してしまう。
それもそのはず、基本的にショウは仮眠しかとっておらず、普通に人間なら眠すぎて病んでしまいそうなのである。
仮眠をとってもまたすぐ眠気が襲うのは普通のことだが、ショウはそれを全く感じさせない、感じさせたことがない。
ショウがこんなに寝なくなったのは、過去の事もあるが、テンの仕事を“ショウが代わりにやる”という事をずっとしてきた結果とも言える。
「・・・ショウ兄さんってちゃんと眠れるんだねー、いつもなら口閉じてるのに・・・」
ショウが熟睡してる時は間抜けにも口を開けているのである。
その違いをイナはショウとテンを焚き火しているすぐ近くで観察していた。
フィルもこれには少し笑ってしまった。
「まぁ、寝た方がいいよな、寝る子は育つんだぞー」
笑顔でイナの頭をぐりぐりと荒くなでる。
普段なら激怒するイナも今日ばかりはそれを抑えた。
ショウが熟睡していると言う件もあるのだが、ポニーテールをしていないという件もある。
多少、髪が乱れても寝る前なので気にもしない。
色々あって、イナはただため息を付いた
「ん?怒らないんだな」
「別に〜色々あるから今回は怒らないよ」
「そうか」
怒ると分かっていてやったと言うことが、フィルの言葉からは取れる。
イナはフィルに少し冷たい視線を浴びせたが、またため息をついて焚き火の火を眺めた。
今日は交代で見張りに立つことになった。
最初の見張りはリョウで、皆が寝るまで仮眠をとっている。
バチバチいう火を眺めてイナが小さく呟いた。
「アンディ・・・私頑張ってるよ・・・」
「アンディ?誰なんだいそいつは?」
とフィルが少し控えめに聞いた。
イナは少し黙っていたが、小さく息を吐いてから口を開いた。
「アンディって言うのは、2年前に死んだ子なの、私とは10年以上一緒にくらいしていた子なの」
「待て、おまえ今何歳だ?」
大きな疑問をフィルはイナに目を見開いて聞いた。
イナは前髪で目が見えないように少し俯いてさびしげに答えた。
「私は、今24歳よ」
それからフィルは声を出せなくなってしまった。
「大丈夫、10歳だから」
イナは少し明るめにフィルに声をかけた。
フィルは何も言えなくなったのでリョウを起こして寝ることにした。

娘は静かに一人の少女に言う。
「なぜ・・・戦うの?」
少女は迷いなく、それでも、感情に流されない声で叫んだ。
「あなたが私達をいきなり襲っているからです!
 ・・・それに・・・私のお父様を・・・目の前で殺されて・・・
 黙っていられるほどおとなしく育っていないのです!」
声は少し震えていた。
娘は悲しげな目で少女を見つめていた。
後ろの扉から、異常に気付いた兵士達が何度もなだれ込んできたものの、10を数える前にそこは屍の山になってしまっていた。
娘の目は、1人殺す度にとても、そうとても深い悲しみを映していた。
それに少女はずっと気付いてた。
娘は少女だけは似たようなものを感じていたのか、殺せずにいたのである。
「ねぇ?・・・私・・・これ以上殺したくないの・・・それでも・・・私は、言われた事をやらなければ・・・。
 私の1番大事な・・・1番大事な生き別れた実の弟が殺されてしまうの・・・。
 逆らえば、リュウに殺されてしまう・・・だから仕方なくやっているの・・・」
娘の声はとても深い悲しみの響きがあり、少女の心に抵抗なく浸透していく。
少女はその悲しみが分かったのか、涙を流してしまった。
「・・・不思議ですね・・・何故だかすごくあなたの心が分かる気がします・・・」
少女の声は未だに震えていた。
「・・・シュレンたちと合流して・・・私にはあなたは殺せない・・・ガイルに任せるから・・・
 シュレンは私の弟・・・ガイルくらいには殺されないから、頑張ってね・・・エグレイノンで待ってるわ」
そう言って、娘は一旦地に立ち、扉がまた大きく開かれた瞬間に壊して入ってきた天井へと帰っていった。
「姫様!大丈夫ですか!?」
入ってきた城の最後の1人の兵士が、膝をついてボロボロに泣いている少女の肩を抱いた。
少女は黙って立ち上がり、扉までフラフラの足取りで歩いていった。
「姫様!これは!」
「・・・私は絶対にこの国を復興させます。
 ・・・それまで、私は優先させるべきものを終わらせます・・・ねぇ?あなたは、私に就いていてくれますか?」
「・・・もちろんですよ、我が姫君をこの命に代えてもお守りいたします。
 何があったかは、姫様の心が安らいでからでいいです。」
兵士の答えに迷いはなく、肩肘をついて深くお辞儀をした。
少女は微笑み、また兵士のそばまで歩いていき、兵士を優しく抱いた。
「命は大事にしてください、私にあなたの命を縛る権利はもうないのです。
 嫌だと思えばいつでもどこへなりとも行って下さってもかまいません。」
少女の声には底なしの優しさが篭っていた、それはすべてへの優しさゆえに、逆に心が痛くなってしまうほどだった。しかし、兵士にはその優しさがとてもありがたく、少女の腰に手を回し、静かに答えた。
「この心に偽りはありません。
 私・・・いえ、僕はあなたに一生就いていきたいのです。」
「あ・りが・・・と・・・う」
少女は最後に泣いた。

ショウ達は次なる街、エグレイノンの門前に着いていた。
イナは背伸びして、珍しくまだ朝にも関わらず何も食べずに歩いていた。
空は透き通る青空だった。