Zero field ~唄が楽園に響く刻~
10唱、夢と現実の迷い唄
「ん〜・・・別行動を取りましょう?」
少女は桃色の髪を揺らし冷静に言う。
緑髪の少女は船から下りてからずっと周りを懐かしそうに眺めている。
どうやらここに何度か来たことがあるらしい。
「ん?いいぜ、俺アルセートレート行くから!」
と勢いよく答えた俺と言った緑髪の少女の目は輝いていた。
桃色の髪の少女は、微笑み、
「確か、故郷があったんだっけ?」
「あぁ、久しぶりに寄ってみたいんだ」
そう言って、笑顔でお互い手を振りながら別れた。
夜、少年は一人月を眺めていた。
ただ、何も考えず、ただそれだけを見ていた。
その瞳には月以外の何が映っていただろう・・・。
それを知るのは本人しかいなかった。
月夜の下、焚き火をしながら、見張り役として、ずっと月を眺めて過ごしていた。
「ん〜・・・や・・・だ〜・・・ねる・・・の〜・・・」
昔の夢でも見ているのか、少年の方に寄りかかって寝ている少女が寝言でそう言った。
少年は少女の方を横目で見て、微笑んだ。
昔から少女はよく寝る子だった。
手伝ってほしい時でも時々寝ると言って拒否すると言うほどとても寝るのが好きな子である。
「ショウ、お前は寝ないのか?」
皆が寝静まってから結構経つが、一人だけ起きていたようだ。
「さっきも言ったが、俺は昔から仮眠しか取ってないんだよ、ちゃんと寝るのは1月に1,2度くらいだな。
と言うフィルも起きてるじゃないか?」
とショウが月を眺めながら返答する、対するフィルは目を閉じたままちょっと黙り込んでいた。
「実はさっき起きたが、またすぐ寝る」
フィルは少し恥ずかしそうに言っていた。だが、普通はそんなものである。
1人旅なんかでは結構寝る時は危険があり、普段はテントを使う。
街など以外で、テントがないところで寝るのは、普通慣れないので、眠れないものが多い中、普通にさっきまで熟睡していたのが、最高年としてちょっと恥ずかしかったようだ。
と言うものの、この世界では、年より経験と勘、運などが物を言う。
フィルのように、最高年でも、ショウには、色々と劣る点があるのである。
よって、一部の博士と呼ばれる者には、年が10満たない者もいる。
他にも、年下を師匠とする者も少なくはない。
フィルは、一息をついたあと、寝返りを打って寝ることにしたようだ。
と同時に、さっきまで静かな寝息を立ててイナと添い寝をしていたリョウが目を開けた。
「・・・」
ショウはリョウと目が合い、そのまま少しの間無言の会話があった。
時々二人は頭を上下させたり横に振ったり、まるで以心伝心しているようだ、が。
もちろん二人とも何を伝えたいのか分からない。だが、そうやって頭を振るのが何故か二人のつぼに入ったらしい。
数分そうやって遊んでいると無表情だったのが段々顔が緩んでいく。
「面白いな」
とリョウが先に口を開いた。
ショウはクスッと笑った。
「リョウお前、天然だろ」
ショウ達の現在地は、アルセートレートのアートレスタを出てから、1日が経った街道の上を歩いている。
起きてからずっと歩き続けていた。
イナはポンポンした調子でずっと歩いていた。
片手には荷物、もう片方の手には・・・。
「イナ・・・食べすぎじゃぁないか?」
フィルが少し顔を引きつりながら注意した。
イナはちょっと眉間にしわを寄せて、口を尖らせた。
「うるさいなー、私はいいのよ〜」
「別にいいだろ食べ盛りなんだ」
リョウがイナへの助け舟を出す。
もちろんリョウ以外の皆は、普通の食べ盛りの子がこんなには食べないことはよく知っている。
フィルは口をへの字にしてイナを眺めている。だが、イナはフィルに凄まじいガンを飛ばしている。
イナは食事を邪魔された時、とても怖い。
ついでに、イナが持ってる荷物は食べ物である。
と言っても、イナの朝ごはんで、自由に食べていいようにしている。
そのへんの管理はほとんどショウがやっている、まるでペット扱いである。
睨み合ってるうちにフィルは意地になり、さらに強く睨みつけ、イナがそれに対抗して、そしてまたフィルが・・・の繰り返しである。
「愉快だなお前らは・・・」
と呆れ気味に言うのはテンをおぶっているショウである。
朝食を食べた後、いきなり「眠い」と言ってショウの背中に乗っかりそのまま寝てしまったのである。
頬をつねっても起きる事がなかったので、仕方なくショウはテンをおぶって歩く事となった。
ついでに、ショウが持つはずの荷物はリョウが持ち、テンが持つはずの荷物はフィルが持っている。
ショウは、重いテンより軽い荷物を持ちたかった、とため息をついていた。
荷物を増やされた側からしてみれば、テンの行動はやたらと身勝手なのだが、それを許しているところは優しい者たちだ。
ずっと歩いているわけだが、街道を歩いている以上、時折魔物に襲われるのは仕方のないことだが、その時、ショウはテンをおぶったまま戦っているので、動きが多少鈍っている。
「ご苦労様!」
などと愉快に笑う栗色の髪の少女テン、その笑顔はどことなく和ませてくれる。
が、それも今のショウには少し通じない。
「あほか、いきなり人の背中に乗るわ、そのまま寝るわ、挙句の果てに、起きたとたん人を蹴飛ばすとはな!」
そう、ショウの言うとおり、テンは起きたとほぼ同時に、
「何してんのよぉ!」
など叫びながらショウを蹴飛ばしたのである。
ついでにその時ショウは「ほあぁ!?」と叫んで魔物に突っ込んでしまった。
テンはそのまま尻餅を付いて転倒、現在どんな状況にあるのかを、分かっていないので尻餅をついた姿勢で数秒硬直していた。
他の皆も口をポカーンと開けてテンを眺めていた。
テンは次第に恥ずかしさで顔が赤くなり、両手で顔を覆ってしまった。
ふらりと魔物を倒して戻ってきたショウが、
「テ〜ン〜」
と口の先を歪め眉間にしわを寄せて低い声で言う。
で、さっきのセリフである。
「まぁ、いいけどな・・・それより、さっさと先行くぞ。」
とショウが尻餅を付いて座り込んでしまっているテンに、手を差し伸べた。
ショウがテンを持ち上げると、容赦なくリョウがショウにショウの荷物を投げてきた。
それに習ってフィルもショウにテンの荷物を投げた。
「フィル!これはテンの荷物だ!俺に投げんな!」
とショウが何とか受け取るとそう叫んだ。そして、ショウが急に目つきを変えてすぐ下にあった石ころを瞬時に取り、フィルの頬すれすれに向かって投げる。
フィルは口の片方を引きつり、固まってしまった。
ショウ以外事態を掴めていない、と言っても他の4人はフィルに怒ったのだと勘違いしていた。
「フィル後ろだ!」
とショウがそう叫ぶまで、誰も気付かなかったが、周りには結構な小型のインセクト(怪虫型)の魔物が飛んでいた。
どうやらフィルの後ろに立っている木から発生しているようだ。
運が悪い事に、その木はフィルの後ろに何本も立って林のようになっていた。
ほぼすべての木から魔物は出てきている。
「あ〜そういえば、さっき看板に、ビーに注意みたいな事が書いてあったようななかったような。」
などとあいまいな事を、イナは思い出そうと首を右左に動かしながら言った。
「それさっさと言えよ!」
作品名:Zero field ~唄が楽園に響く刻~ 作家名:異海 豹