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Zero field ~唄が楽園に響く刻~

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と言った後、二人で勢いよく港に飛んで行き、イナとテンの前にたどり着く。
「んじゃ、テン、カミアを貫いてくれ」
と、ショウは背を向けてテンに言った。
テンは覚悟していたかのようにうなづいた。
もう迷ってなどいられないのである。
アレはもうカミアではない、二人のよく知るカミアとは似ても似つかない。
姿かたちが同じでも、記憶を写し取られただけのものに、完全に演じる事なんてできはしないのである。
「なら、3人で矢が通る道筋を作る」
リョウは少し笑っていた、試す響きがその声にはあった。
「くるよ!」
次の攻撃が来るのと同時に、イナは叫び、3人は道筋を作るために魔物に飛んでいった。
捕らわれたカミアは、テンが向ける矢がどこを向いているかに気付いた。そして、口を吊り上げて、テンを見続けていた。
ショウは右の翼を抑え、リョウは左の翼を抑え、イナは魔法で魔物の足を捕らえた。
「や、やめて!私を助けて!」
カミアの叫び声が響く、しかし、テンの眼は何の迷いもなかった。
カミアは舌打ちをして、演じるのをやめた。
「離せ!私はもうこんな反逆者とは関わりたくない!」
と、捕らわれている魔物に叫び、抜け出そうと動き始めた。
さっきまでずっとカミアの命令で動いていた魔物も、何故かこの時カミアの命令を無視した。
「おい!離せって言ってるだろ!?話なさいよ!!!」
「いっけえぇぇぇぇ!!」
焦りだすカミアを余所に、テンは引き絞った魔力の矢を離した。
矢はきれいな光を放ちながらまっすぐにカミアめがけて飛ぶ。
その矢を、魔物は自ら望んだように受けた様にショウとテンには見えていた…。

「終わったようだな…アレがGeneretor…そう言えば、あいつは大丈夫だろうか」
と甲板で呟くのはフィルディアである。
いざとなった時、両手に持っていた銃で援護するつもりだったようだ。だが、それも結局いらなかった事に微笑んでいた。
船はまた動き出しあと少しの港まで進んでいった。

「何のつもりだ」
それはよく聞いた事のある声、あと少しで30代の仲間入りしそうな男は、
ショウ達を納得いかなそうに睨んでいた。
「もうあなたの正体は知ってるの、騙せてるとでも思ってたの?」
とテンが少し可哀想な眼をして、そう告げる。
「な、何を言っているんだ?俺だよ、バルトだよ、そ、そうだ!カミアはカミアはどうしたんだよ!?カミアなら俺の事が分かるはずだぞ?!」
と焦って言い訳し誤魔化そうとするバルトに静かな幼い声が、
「殺したよ、本来の人とは違う物となってしまった人の過ちに巻き込まれた悲しき人。
 テン姉さんが泣きながら彼女を救ったよ」
バルトは口をあんぐりしていた。
ばれていると言う事にも、殺したという事にも、どっちにも驚いていた。
まさか、カミアが盾になっていたのに殺せるとは思っていなかったのである。
声が出なくなったバルトは、そのまま役所に行って預ける事にした。

「久しぶりに帰って来たなー、つい寄り道しちゃったなー」
と少女が笑顔で独り言をしている。
どうやらここは少女にとって故郷なのだろう。
どうやらさっきまで魔物の騒ぎがあったらしいが、どうやら少年達が、その騒動を沈めたらしい。
港は結構壊されていたが、運が良い事に、船乗り場は生きていた。
少女は段々、嬉しくなって、街のすべてを見て歩いていた。

「帰ってきましたー!」
と緑の少女がすごく嬉しそうに叫ぶ、それとすれ違うように、5人はアートレスタを出た。
「すごい大きな声だったね、あの子」
イナが後ろを振り返りながら言った。
リョウは全く関心なさそうに前だけを見て歩いていた。
「・・・アレって本当に女の子か?」
と疑問を投げかけたのはフィルディアである。
フィルディアはリョウの紹介もあって、この旅に同行する事になった。
フィルディアと目的地が一緒なので、結局仲間は多い方がいいと言う事で一緒に行く事になった。
ついでにフィルディアは26歳である、この中では1番年上と言うわけになる。
「フィル、人の趣味にとやかく言うのはやめよう・・・。」
とショウが目を細めてどうでも良さそうにフォローのような言葉を言う。
テンはペンダントをちょっといじくりながら、ずっとショウの横を歩いている。
買って以来お気に入りになってしまって、暇がある時は結構いじくっている。
テンは胸元が開けている服を着ているため、ペンダントがよく見えるが、ショウはそうではないので服の下に、ペンダントがある。
つまり、今のところ2人以外はペアルックなのを知らない。
くっつけると、0型やハート型になる、そんな3色真珠のペンダント。
実は、買う時おじさんは言わなかったが、これには「永遠の愛の誓い」と言う思いが込められた、最高の職人により作られた、唯一無二の代物らしい。
もちろん、2人はそんなことは知らない。
それに、不思議な力があることも知らないのである。

「私は…悪くない…悪いのはこの国…だって…」
そうやってぶつぶつと自分に暗示をかけるように呟いている娘がいた。
その娘は、槍と盾を横に置き城の上に座り込んでいた。
どこか悲しみを映したその瞳はどこを見ているのか分からない。そして、また自分に暗示をするようにぶつぶつと言い続ける。
途中、自問自答をする時もあったが、そうやって数分が経ったころ、娘は決意したように立ち上がり、深呼吸をした。
「さて…行きましょう」
槍と盾を手に取り、ゆっくりと足を前に出してゆき、歩き始める。そして、ガラス張りの天井前で少し立ち止まって、また深呼吸をする。
座っている時もそうだったのだが、よく見るとこの娘は少し浮いていた。
黒髪を揺らし、少し飛んでガラス張りの天井に勢いよく突っ込んだ。そして、下にいた者たちは驚き上を見た。
「な、なんだ?!」
その時にはもうすでに遅かった。
下にいたもの数人はガラスの破片が当たりかすり傷だったのだが、上から降ってきた娘の槍の餌食に2,3人がなっていた。
その槍は、人の体を貫く時、まるで空を切るような滑らかさだった。
「い…一体…」
娘の前で一人の少女が戦う体制となっていた…。