影響された世界にて
……誰も答えることができないのは当然であった。いきなり円状の稲妻の中から、炎に包まれた巨大な物体が、猛スピードで飛び出してきたからだ……。
その物体の側面には、5文字のアルファベットが刻まれていた。前部は楕円状で、後部には2本の直線状の横棒が突き出している。そして、あちこちから、炎や黒煙があがっていた。
その物体は、村のほうへ進んでいるため、人々はさらに慌てた。さすがに長老も、後ずさりをしている。
キィ−−−−−ン!!!!!!
人々が家の中に逃げ込みよりも前にその物体は、飛行機がすぐ上を通り過ぎたときのような、耳をつんざく爆音を立てている。
そして、その物体は、村の真上を通過していく。人々は、ポカンとした顔で見上げている。
シャーーー!!!
そんな人々のもとへ、いきなり大量の水が、雨のように降り始めた。人々は、雲も無い突然の雨に、ただ驚愕していた。
「あ、雨だ!!! 雨だ〜!!!」
ある村人が大声を上げながら、口を空に向けて降ってくる水を飲み始めた。すると、他の人々も、その村人のように降ってくる水を飲み始めたり、家から入れものを持ってきて水を貯め始めたりし始めた。ただ、長老だけは地面にへたりこんだままで、体を震わせていた。
人々が「雨」に夢中になっている間に、稲妻は消えていた。そして、何事も無かったかのように、空は元の紫色に戻っていた……。
「雨」は1分ぐらいしてぴたりとやんでしまった。だが、水は十分に貯まり、人々は喜んでいる。
「ありがたい、ありがたい」
「しかし、あれはいったい何だったんだろうか?」
「さあな。偉いお方であることは確かだ」
ガガガガガガガガガガ!!!!!
すると今度は、激しい金属音(ちなみに、この世界の人々は、まだ金属の存在を知らない)とともに地面が激しく振動した。
「今度は何だ!?」
「おい!!! あっちの山のほうを見ろ!!!」
別の村人が、指をさしながら大声で叫んだ。人々はその方向をいっせいに見た。
その方向にある山の近くで何かが燃えているのがわかった。村からはそう離れていない。
「降りてこられたのかもしれん」
「この村へいらっしゃるのだろうか」
敬語口調で話し始めたことから、「雨」を降らせてくれたあの物体のことを敬っているつもりなのだろう。
その物体を包んでいた炎は、しばらくして消えた。消えても物体に変化は起きなかった。だが人々は、その物体を眺め続けている。
結局、多くの人々が翌朝まで、その物体を眺め続けていた……。まるで何かに取り憑かれたかのごとく……。