影響された世界にて
「……まずい」
ウォーは小声でそう言った。
小さい影はピスだ。しかし、大きい影は、ウォーが注意していた獣だったのだ……。
その獣は鋭い牙と革をしており、6本の手足を持ち、その手足の先にはこれまた鋭い爪を持っているという強そうな奴で、おまけに、少なくとも笑って接してくれそうにないほど、凶暴なようだった……。
ウォーがピスを助けに向かおうとしたそのとき、獣がピスに襲いかかった。彼女は素早く避けたが、鋭い爪が服を一瞬で裂いた。皮膚にも少し切り傷ができたらしく、青色の血が流れ始めている……。
獣からの攻撃を受けた彼女は、うつ伏せに倒れる。獣は倒れた彼女を、クンクンと匂いをかいだ。ウォーは、彼女はもうダメだと、悔しそうにしていた。次の瞬間には食べられてしまうだろうと……。
しかし、獣は、彼女に噛みついたりせずに、じっと見つめているだけだ。4つある目で、訝しげに観察しているようだった。
倒れたままの彼女は、微動だにしていなかったが、死んだわけではなさそうだ。
「なんだ?」
ウォーは、その光景を不思議な思いで見ている。すると突然、右肩に手が触れた。
「ワッ!!!」
ウォーは大声を上げて驚いてしまった。その大声で、獣はウォーがいるほうを向く。まだ見つかったようではなかったが、じっと彼がいるほうを見ている
ウォーの右肩に手を触れたのは、追いついてきたルリジだった。
「どうしたんだよ?」
「バカ! すぐそこに獣がいるんだよ!」
ウォーは胸の鼓動を落ち着かせながらルリジに言った。ルリジは、獣道の前方をおそるおそる見た。獣の姿を見つけたときは、ぞっとした様子になったようだが、うつ伏せに倒れたままのピスの姿を見つけた途端に、
「ピス!!!」
RPGのイケメン主人公のような口調で叫ぶと、ピスの元に駆け寄ろうと、ウォーの制止を振り払って駆け出した。
しかし、当然ながらその場には獣もおり、ルリジの姿を見つけるないなや、鋭い爪で彼を攻撃してきた。幸い、獣の爪は当たらなかった。
「あのバカ……」
ウォーはため息をついて、彼の背中を見ていた。
獣は、後ろの2本の手足を器用に使って、猿のように木の太い枝にぶら下がった。そのすぐ下にピスがいるが、駆け寄った途端、攻撃を喰らわされるだろう。
「クソ!!! やってやる!!!」
ルリジはそう決心した様子で叫ぶと、持ってきたこん棒代わりの自動小銃『AK47』の台尻を、獣の方へ向けた。
それが重いからか、獣が怖いからかはわからないが、台尻が震えている……。そんなルリジを、獣は愉快な様子でぶら下がりながら見ていた……。獣の爪には、ピスのものと思われる青い血が付着していた……。