大人のための異文童話集2
毎日、寝る間も惜しんでは、何ヵ月もお祈りをしていた少女でした。
願いが通じたことで、精も魂も尽きてしまい、そのまま息を引き取ったのです。
それでもその顔は安堵の笑みを浮かべ、閉じた瞼の片隅からは一筋、喜びがこぼれていました。
それを見たヴィシュナは、あまりにその少女が不憫と思いました。
「この子のせいではないことでのシヴァの怒り…。」
「それなのに、この子はひとりでそれを背負い、戒め、祈り、そして命までを捧げて…。」
「これではあまりに可哀想。」
ヴィシュナはそう呟くと、少女の涙を空へと舞い上がらせました。
するとどうでしょう。
雨が上がり、雲の去った空には、大きくて綺麗な七色の橋が掛かったのでした。
少女の純真で健気な心は、こうして虹として生まれ変わったのです。
だからでしょう…
今でも、人の身勝手な所行に天空が涙した後には、慈愛の神ヴィシュナが、虹となったあの少女の清らかな心を、もう一度人々に思い出させるようにと、空に美しい虹を映し出しているのです。
作品名:大人のための異文童話集2 作家名:天野久遠