FLASH
理恵の言葉に、沙織が頷く。今日から一人暮らし同然で、ここに住むことになる。不安もあったが、今は楽しいほうが大きい。
「じゃあ、私はこれから事務所に戻って、いろいろやらなきゃならないから。何かあったら、すぐに電話してね」
「はい。ありがとうございました」
理恵の言葉に頷いて、沙織は玄関まで見送り、口を開く。
「あの……鷹緒さん、今日は出張なんですよね?」
「ええ。確か、京都へ撮りだって聞いてるわよ。今日は帰らないみたい」
「そうですか……」
「じゃあ行くね。戸締りはちゃんとすること。あとは明日八時に、事務所へお願いね」
理恵はそう言って、部屋を出ていった。
「なんだ……鷹緒さん、今日は帰らないんだ……」
部屋に一人残された沙織は、リビングへと戻っていった。ふと、リビングにつけられたドアが気になる。いけないと思いつつも、沙織はドアに手をかけた。
ドアの向こうをそっと覗くと、薄暗い鷹緒の部屋が見える。あまり生活感が感じられず、もちろん人の気配もない。沙織はそっとドアを閉めた。
「鷹緒さんと理恵さんが、暮らしてた場所か……」
沙織は少し、この部屋が嫌になった。きっと楽しい結婚生活だっただろう。二人の姿が目に浮かんだ。
その夜。沙織は寝つけずに起き上がると、リビングへ水を飲みに行った。電気をつけるとソファに座り、水を一気に飲み干す。
まだこの部屋に慣れていないからか、まったく寝られる気配がない。沙織がぼうっとしていると、突然、リビングのドアが開いた。