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司令官は名古屋嬢 第1話 『中京都軍』

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 大須たちは車に乗りこみ、彼女たちの職場である『中京都軍』の本部へと向かった。中京都軍本司令部と『CROSS』の基地は、少し離れている。

 途中の交差点で、赤信号のため停止していたとき、
「右に『世界保安省』の車が止まってますよ」
守山は悪態をついてから小声で言った……。無言で大須と上社が右に止まっている車を見ると、確かに世界保安省仕様のトヨタの『クラウン』(黒)が右の位置に止まっていた。
 『中京都軍』は軍隊であり、『世界保安省』は秘密警察的な存在の別の機関だ。濃いスモークが張ってあり、その黒塗りの車の中を見ることはできなかった。

 しかし、その車の助手席側の窓がいきなり開き、目つきが悪い男が顔を見せた。その男は、むかしのドラマに登場する鬼刑事のようで、ベージュ色のハンチング帽とロングコートという古臭い格好をしていた。年齢は50代ぐらいだ。
 その男は窓から手を出し、大須たち側の車の後部座席の窓を叩く。偶然とはいえ、大須たちに何か話したいことでもあるのだろう。大須は、上社と守山に目配せしたあと、車の窓を開ける。窓を開けると同時に、冬の冷たい風が暖房がきいた車内に流れこんできた。

「よぉ、中京都軍のお嬢様じゃねぇか! 栄(名古屋の繁華街)にブランド物のバッグでも買い漁りに行ってたのかい?」
ロングコートを着た中年男が、大須に向かって下品に笑いながら言った……。大須は慣れている様子で、
「川路さんじゃないですか。そちらは、銀行に融資のお願い周りですか?」
大須は半笑いの表情で皮肉を言った。その皮肉が気にさわったのか、川路という中年男は笑うのをやめ、真顔になり、
「……山口のお気に入りだからっていい気になってんじゃねぇぞ! おまえら中京都軍のせいで、俺たちは予算不足で苦しんでんだ!」
ドスがきいた口調で川路が言う。大須がクスりと笑ってから口を開け、
「そんなにお金に困っているんなら、あなた達が乗り回しているクラウンを全部売っちゃったら? まあ、世界保安省で使われてたクラウンなんて、バキュームカーぐらいの価値しかないでしょうけどね」
そう言い返してやった……。