VARIANTAS ACT6 閉鎖
立て続けに、二発、三発、四発と、連続して発砲。
爆炎が、ディカイオスの前方で華々しく散る。
「射線確保! 荷重力弾、発射スタンバイ! カウント…」
発射カウントに入るアーチャー各艦。
そのときだった。
「ゲート内に大質量反応!」
活性化し、渦巻く境界面。
ソルジャー達を送り出す時より激しい。大質量物を、転送させている証拠だ。
そしてモニターに映る巨大な何かは、兵士達に苛立ちよりも恐怖感を与えていた。
ゲート内に現れる巨大な『それ』は、ゆっくりと、その異様な姿を現した。
そこにいたのは、ディカイオスより遥かに巨大な、禍々しい姿のヴァリアント。
両肩に存在する龍の様な顔。
腰部から伸びる長い尾。
その姿は、兵器と言うよりはまるで怪獣だ。
「巨大ヴァリアントだと!?」
思わず叫ぶアーチャー01の艦長。
次の瞬間、ゲート内がまばゆく光った。
「ゲート内に陽電子反応!」
「来ます!」
ディカイオスが、艦隊の真正面へ出て両腕を前に向ける。
「エステル! 広域防御システム起動! 位相差断層壁出力全開!」
そして、ゲート内から、巨大な閃光が発せられた。
それは、二本の光の杭となって、艦隊へ、そしてディカイオスに迫った。
巨大な光線は、ディカイオスに命中。
ディカイオスと、艦隊を包む閃光。
閃光は海を抉り、蒸発させ、溝を刻む。
そして、閃光が晴れる。
そこには、数隻の艦と、二隻の空母だけが残されていた。
他は、すべて、閃光の中で蒸発した。
「被害報告を…!」
ガルスが重い口調で指示を出した。
「戦艦10隻、駆逐艦15隻、巡洋艦16隻…消滅…! その他多数、戦闘不能!」
「空母、オリオン、タイコンデロガ、エーデルワイス、エキドナ…同様に消滅したと…」
ガルスは、歯軋りをした。
「こんな事、セカンドムーブ以来だ!」
ガルスが両腕で机を叩く。
「ディカイオスは!?」
最後の綱であるディカイオスを、ガルスは一番心配していた。
オペレーターは、何度も、ディカイオスに通信。
だが返信がない。
皆が諦めかけたその時だった。
「こちら、ディカイオス…無事だ」
ノイズ交じりの音声で、ディカイオスから返信が入った。
艦隊を殆ど消滅させた攻撃でも、ディカイオスは無事だった。
「グラム! 機体は?」
「エステル」
「はい」
グラムの代わりに、エステルが答えた。
「各武装、異常無し。装甲面、破損0.8パーセント以下。炉心の安定性が若干低下しましたが許容範囲内です」
「そうか…」
胸をなでおろすガルス。
「司令…艦隊が殆ど消滅した」
「分かっている。お前が防御していなかったら、艦隊は全滅していた」
突然、回線に強制介入。
「通信回線に、強制介入!」
「どこからの発信だ!!」
「これは…! ゲート直下、巨大ヴァリアントからです!」
「私の砲撃が直撃しても無傷とは。興味深いな」
無線に響くその声は、あどけなさが残る、少女の様な声。
その巨大で異様な姿とはアンバランスなロリータボイスだ。
「貴様は誰だ」
グラムが巨大ヴァリアントに問う。
「敵対者共に名乗る口は持たぬが、戯れに教えてやろう。私は『リベカ』…異形の軍勢の王であり、神である、大いなる父君の一人娘…お父様の意思を遂行する者だ」
グラムは嘲笑しながら言った。
「ふ…娘だと? 女の子なら、もう少しお淑やかになっては如何かな? 『お嬢さん』」
「貴様!この私を愚弄する気か!」
「『愚弄』…?可笑しな事を言う…」
「何がおかしい!!」
グラムはリベカの声を無視した。
「悪戯が過ぎたな、小娘。きつい仕置きが必要の様だ」
そう言うとグラムは、敵機にフレズベルグの銃口を向けた。
「お父様に頂いた、この『ネクロフィリア』の力を思い知れ!!」
リベカは、二振りの剣を圧縮空間から取り出し、二本の腕で持った。
対峙する二機。
「(あのハンドガン…グラビティーレールガン…重力壁を展開して、曲面跳弾させれば…防げる!口径から見て、装弾数は15…弾切れさせて、リロードの瞬間に一気に切り込む!)」
リベカは剣を、ディカイオスに向けた。
「来い!!」
グラムは、フレズベルグを連射。
その弾丸は正確にコアを狙っていた。
リベカは機体をひねり、素早く弾丸を回避。
機体を中心に球型に展開した重力壁が、フレズベルグの弾丸を取り巻く重力波と干渉し、その軌道を捻じ曲げた。
弾かれる弾丸。
「(避けれた!!)」
連射される弾丸。
そのすべてが回避された。
「速い…それも尋常な速さじゃない…あの体躯でこの速さか…」
グラムは、二挺のフレズベルグで撃ち続けた。
右のフレズベルグが先に弾切れし、スライドがロックする。
彼は右のフレスベルグを亜空間コンテナへしまい込み、左で撃ち続けた。
「後、二発!…後、一発!」
響きわたる銃声。
スライドがロック。
左のフレズベルグも、弾が切れた。
「(今だ!リロードする!今からリロードしても、ファーストアシストに2秒掛かる!貰った!)」
リベカがディカイオスに切りかかる。
まずは右上からの袈裟。
左腕で防御。同時に右正拳を打つ。
だが、リベカは右正拳を左剣の打ち下ろしで防御。
次の瞬間グラムは、ディカイオスの右腕をネクロフィリアに向けた。
その右手には、既にプレッシャーカノンが握られている。
「!!」
発砲。
プレッシャーカノンから発射された重力衝撃波は、回避行動に入ったネクロフィリアの重力壁を打ち抜き、左肩の龍の顔を砕いた。
「きゃっ!!」
思わず、声を上げるリベカ。
次の瞬間、ディカイオスがネクロフィリアに左拳を打ち込んだ。
リベカは剣を交差させ、ガード。
立て続けに迫る右回し蹴りを回避。
リベカは機体をディカイオスから急速離脱させ、ネクロフィリアの両肩からさらに4本の腕を生やす。四本の腕から同時にビームキャノンを発砲。
回避するディカイオス。
その瞬間、ネクロフィリアの右肩に付いた二本の腕と龍の顔が分離して延び、ディカイオスに襲い掛かった。
拳を打ち込み龍を砕く。
それと同時にリベカは、龍の顔を本体から分離させ、ディカイオスに切り掛かった。
グラムは、まっすぐ振り下ろされた二本のブレードを左腕でガード。
しかし、ネクロフィリアのブレードは、少しずつディカイオスの装甲にめり込んでいった。
――このブレード…、重力子ブレードか!!
グラムは素早く、右手に持つプレッシャーカノンを向けようとしたが、ネクロフィリアの再生した腕がプレッシャーカノンを握りつぶす。
「どうした? 手も脚も出ないのか人間!!」
「頭は出る」
ディカイオスの頭突きがヒット。
立て続けに前蹴りが、ネクロフィリアの腹に飛ぶ。
しかし。
「惜しかったな」
ネクロフィリアの両手が、ディカイオスの脚をしっかりと掴む。
そして、残った二本の腕で、ディカイオスの顔面を殴りつけた。
何度も何度も、まるでマシンガンのように殴り続ける。
「死ね! お前はここで滅びろ!」
ブレードを振り上げるネクロフィリア。
しかし次の瞬間。
「がはっ!!」
作品名:VARIANTAS ACT6 閉鎖 作家名:機動電介