VARIANTAS ACT6 閉鎖
ロンギマヌスの、右肩から胸にかけて銀色の金属色が見えている。
先ほど、ナイトが放ったビームが掠り、余波で塗装が燃え落ちたからだ。
レーダーでナイトを確認。
「見つけたぞ! この野郎!」
ナイトへ突撃。
突然、無線へ強制接続。
「貴様! 我々の邪魔をするな! 所属と管制名を名乗れ!」
『カチン』とくるビンセント。
「邪魔だと!? ざけんなコラァ! てめぇらの大将からてめぇらを助けろと言われてきたんだよ!」
「何!? 大佐が!? 貴様一体誰だ!」
「うるせぇ! ただの傭兵だ!」
一方的に回線遮断。
ナイトへ迫る中、道を譲るように避けていくHMAたち。
ビンセントは、機体をナイトに肉迫させた。
放たれる二本のビーム。
素早く回避。
機体を一気に上昇させる。
トップアタックだ。
カノンを三点バースト。
一発目はまったく外れ。
二発目は近くに迫ったが惜しくも外れ。
三発目は、ナイトの胴体に迫った。
ナイトは身体をロールさせ、ガンブレードで120㎜弾を防御。
ブレードから火花が散った。
「何だ! コイツ! 畜生め!」
苛立つビンセント。
FCS画面を確認。
残り弾数2。
ナイトはミサイルを撃った。
「むお!」
機体を素早く柔軟に機動。
ミサイルの命中予測範囲から逃げる。
それを追尾するミサイル。
弾がもう無い。ミサイルを撃つことは出来ない。
ビンセントは機体の重力制御装置を切った。
そして機体を真っ逆さまにし、急降下。
機体重量とスラスターで、ミサイルを振り切る。
高度計が凄い勢いでカウントしていく。
4000、3500、3000、2200…
機体が軋む音を無視。
コクピットに掛かる強烈なG。
来た。
『ブラックアウト』だ。
脳に血が行っていない。
遠のく意識。
まだだ。まだ、辛抱。
大きく、深く深呼吸。
膝アーマーの中から、一発のハンドマインを取り出す。
ロック解除。トリガー。
それをミサイルの中に放り込んだ。
炸裂するマイン。
ミサイルは次々に誘爆し、炎の大花を咲かせた。
迫る海面。
そのまま叩きつけられれば、ひとたまりも無い。
海面スレスレで、重力制御を再起動。
バーニアを最大噴射。
水しぶきを上げ、海面に対して水平に。
目の前が、ぱっ、と明るくなる。
もう一度深呼吸。頭が痛い。無視。頭を左右に振る。
首を鳴らし、レーダー確認。
ナイト、捕捉。
バーニア噴射。急加速。
ナイトと並走。
攻撃はしてこない?
「勝負か…上等だ!」
機体を急減速。
ナイトがロンギマヌスを追い抜く。
「一か八か…仕掛けてみるか…」
方向転換し、高速で迫るナイト。
彼はスモークを射出。
ナイトはブレードをチャージ。
ビンセントはランチャーを上に向かって投げた。
迫るナイト。
ビンセントはマインを取り出し、両手に持った。
ナイトから放たれるビーム。
機体を、素早く降下させ、寸で回避。
また、塗装が燃えた。
そして、マインを投げた。
マインが、ナイトの両脇に位置した瞬間、ロンギマヌスの目の前にランチャーが落下してきた。
それをキャッチし、マインに向かって素早く発砲。
残された、最後の二発の弾丸はマインを炸裂させた。
両脇で強烈な爆発がおきる。
ナイトはその爆発の間に挟まれた。
この間、わずか2秒の出来事だった。
強烈な衝撃波で左腕と共にブレードが砕け散る。
ビンセントは弾切れになったランチャーを捨て、腰部後ろの単分子ナイフを抜き、即座に、バーニアで接近。
すぐ目の前に迫るナイト。
装甲のあちこちにヒビが入っている。
それでもナイトは、残された右手のブレードを大きく左から右へ振りぬいた。
迫る白刃。刃先が、ロンギマヌスの頭部を掠る。
『ひゅっ』と短く息を吐く。
タイミングを合わせ、ビンセントは、左腕を下から振り上げ、ブレードの腹を叩いた。
はじかれるブレード。
彼は姿勢を低くして、ナイトの懐に入った。
甲高い金属音。
すれ違う二機。
そして一瞬の静寂。
ロンギマヌスの左腕は粉々に砕け散っていた。
一方、ナイトは、その頭部を失っていた。
力なく、落下していくナイト。
そして、そのまま海面に叩きつけられ、大きな水柱をあげた。
「うむ! 良い勝負だった!」
コクピット内に鳴り響く多数の警告音。
気付けば、彼のロンギマヌスはボロボロになっていた。
「メーカー修理だな…こりゃあ…」
そう呟くと彼は、無線のスイッチを入れた。
Captur 5
空を埋め尽くすソルジャーの群を見ても、彼は全く動揺を見せなかった。
冷静な表情で、あくまで淡々と。
「エステル、ナイトは捕捉しているな?」
「はい。いつでも攻撃できます」
「よし」
そこへ、無線通信が入った。
「こちら、レイズ! ナイト、撃破しました!」
立て続けに、ビンセントからも。
「おい!この野郎!終わったぞ!」
グラムは、『ふ…』と短く笑い、ディカイオスを艦隊の目の前に位置させた。
「フレズベルグ、弾体加速度最大。ミサイル全弾発射後、AHL発射」
「了解」
ディカイオスのミサイルポッドから、無数のミサイルが放たれる。
それを追うように、ホーミングレーザーが空を切り裂く。
爆炎が空を埋め尽くし、バーティカルな閃光の柱と、オレンジの炎が空を染めた。
「エステル、着弾点と、絶対貫通域を」
「表示します」
コンソールに表示される、何本もの赤いライン。
それは、ディカイオスから、ソルジャーの群を突き抜け、戦闘領域外へ。
「確認した」
彼は、フレズベルグの銃口をソルジャーの群に向け、発砲。
あたりに響き渡る独特の銃声。
発射された弾丸は、群の先頭のソルジャーを突き抜けた。
銃身内で、重力場によって加速されたその弾丸は、強大な貫通力を生む。
敵機を数十機貫いてもなお、弾丸は運動エネルギーを失わず、射線上に存在するソルジャー全てを貫いた。
弾丸は群の中を通りすぎ、やがて空へ。
群を突き抜けた弾丸は、雲の海に大きな穴を穿った。
どす黒い雲に穴を開けて、青い空が見える。
弾丸の通った痕は、貫かれていったソルジャーの爆炎が飾った。
グラムは眉一つ動かさずに、フレズベルグを群に向かって連射。
凄まじい反動。音速を遥かに超えて撃ち出される弾丸。
重力波を纏った弾丸は、弾体より大きな穴を開けた。
散り散りにされるソルジャーたち。
彼がフレズベルグの弾丸を撃ちつくした頃には、ソルジャーは殆ど、姿を消していた。
「残存勢力、ナイト、およびソルジャー数機です」
レーダーに映る、数個の光点。
リロード。
ナイトとソルジャーは、ディカイオスに向け、撃てる限りのビームを放った。
おもむろに、銃口をナイトに向けるディカイオス。
そして、発砲。
フレズベルグの弾丸は、ビームの幕に突入。その瞬間、弾丸の発する重力波がビームを捻じ曲げられるように湾曲。
弾丸はビームを拡散させ、ナイトへ。
鈍い音を立てて、ナイトの上半身が消し飛んだ。
作品名:VARIANTAS ACT6 閉鎖 作家名:機動電介