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‎VARIANTAS‎ ACT5 トライデント

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 エレナを毒づくグラム。
「そんな事しないわよ…この子は多分…」
 エレナの言葉半ば、グレンは彼に駆け寄ってきた。
「大佐!大丈夫ですか!?どこか悪いんですか?」
 目を潤ませるグレン。
 そんな彼女に、彼は優しく答える。
「…大丈夫だ…何処も悪くない。心配するな…グレン」
 安心した表情のグレンだったが、次の瞬間彼女の心配事は別の分野に移っていた。
「大佐…私ずっと気になってた事が有るんです…」
 彼の顔を真剣な表情でみつめるグレンに、エレナが問うた。
「それは彼の『能力』の事かしら?」
「え? ええ」
 エレナは壁に寄り掛かり、腕を組んでゆっくりと語り始める。
「あなた、『千里眼』って知ってる?」
「ええ、知ってます。遠くの場所や未来が見えたりする能力ですよね?」
「そう、昔からそう言う人達はたくさん居たわ。でも本当にその力を持っているのは、極めて一部の人だけ…本物の力を持っている人達は皆一つの施設に集められたと言われているわ」
「『本当に力を持っている一部の人達』…?」
「科学者達は彼らの能力の解明に躍起になった。そして、ごく最近、ここ20年位でやっと解ってきた。彼らの脳内には特殊な脳神経回路が構築されているの。そしてこの『脳神経回路』こそが『能力』の鍵…。能力者の脳内では神経細胞が高度な超空間ネットワークを構築しているらしいのよ。彼らの神経回路は『量子回路』を形成し、宇宙の事象や、物質として顕現している因果律に干渉する事によって視覚野に明確なビジョンを送り込むのよ」
「『超空間知覚能力』…」
「ええ、『千里眼』は古い呼び方ね…彼は正にその『超空間知覚能力者』よ」
 エレナの説明を聞いて、彼女は過去の出来事を思い出した。
「だから大佐はあの時も機械より早く気付いたんだわ!」
「能力者は機械なんかより遥かに正確で鋭敏よ」
 グレンは、安心した表情を見せた。
「でも、大佐…どこも悪くなくて本当によかった…」
 にっこりと微笑むグレン。
「(あ~、この子本当に可愛いわ…)」
 エレナはグレンをじっと見つめた。
「(なんだろ…背中に寒気が…)」
 グレンの背中に悪寒が走る。
 振り向くグレン。
「…何ですか…?」
「別に?」
 エレナはグレンから目線を逸らすと、グラムに向かって言った。
「それより、貴方がまた『夢』を見たと言う事は…」
「ああ、間違いない。敵が来るぞ…!」
 息を飲むグレン。
「それより…大佐…服着てくれません?」
「……」



***************




[2188年12月7日1000時、サンヘドリン本部中央作戦会議室]


「つまり、こう言う事かね? ミラーズ大佐。空間跳躍によるヴァリアンタスの大規模侵攻…!」
 ガルスは真剣な顔で彼に言った。
「はい。インド洋第一艦隊からの観測データを知人が解析した所、インド洋沖、1800kmに出現した巨大な重力場歪曲が空間跳躍ゲートの出現を予徴していると結論付けました」
 会議室の空中にホログラフが現れ、彼はそれを使いながら説明を続ける。
「馬鹿な!? 信じられん!」
「フィジカルゲートを用いない長距離ジャンプは我々でもまだ研究段階だぞ!?」
 各軍団や省庁の高級士官たちがどよめいた。
「大佐、敵の侵攻開始まで猶予は?」
「それは情報軍団のハルト准将にお任せします」
「ご報告します。ミラーズ大佐の御知人のからのデータによりますと、予測では約10日…とのことです」
「もし…その予測が正解だとすれば、艦隊の保有する機動戦力では『殲滅』は不可能であろう…海軍司令官としての見解はどうかね?」
 ガルスは海軍服を着た士官に言った。
「我々海軍は充分闘えます。と言いたい所ですが、いかんせん、足止めが限界です。当然、ディカイオスが無ければどうにも…」
「艦隊の増援が必要だな」
 腕を組んで目をつぶり、深く考え込むガルス。
 暫く経ってから、彼は口を開いた。
「第二艦隊から空母、駆逐艦、巡洋艦を借用。ディカイオスは現地まで空母で輸送。戦闘開始後はディカイオスを中心に各艦載機を展開。順次、艦隊によるDCSを開始。問題はゲート本体だ。これに関しては後日討議する」
 そう言ってガルスは、会議を解散させた。




Captur 2

[12月16日、インド洋上、グレートウォール級汎用母艦『オリオン』内]
「そういえば、君とこうやって食事するのって始めてだね」
 彼と、サラは、艦内の自室で、食後のデザートを食していた。
 レイズと共に、ケーキをついばむサラ。
 彼が彼女に言った。
「あれ? そういえばイクサミコって、普通の食事しないんじゃなかったっけ?」
 彼女は答えた。
「それは誤解です。レイズ軍曹。私達イクサミコは確かに、殆どチューブ食ですが、普通の食物も摂取出来ます」
 長い間艦隊に駐在する場合、兵士の精神衛生上、食事は大きな意味を持つ。
 無論、『ケーキ』等の甘いものは普通にある物ではないが、空母等の大型艦乗組員はそれらを食す事ができた。
「でもさ、出港してからもう2日だよ? ずーっとケーキばかり食べてたら太っちゃうよ?」
「イクサミコは太りません。それに甘い物は別腹です」
 談笑しながらケーキを2個ほど平らげ、紅茶で一服…
「なんか僕達だけ個室で食事って、他の人たちに悪いね…」
「ええ、でも…、二人で食事するのも悪くないです」
「うん、そうだね、サラ」
 微笑むレイズとサラ。
 そのとき。
「レイズ=ザナルティー軍曹、グラム=ミラーズ大佐がお呼びです。A‐15格納庫までお越し下さい」
 突然の呼びだし放送。
「ん…呼びだしだ…行こう、サラ」
「はい」


 格納庫では、グラムが黒いHMAを眺めていた。
「大佐、遅くなりました」
 敬礼するレイズ。
「何でしょうか?大佐」
「軍曹、新しい機体の調子はどうだ?」
「ええ、出力がでかくてじゃじゃ馬ですけど素晴らしい機体です!」
「そうか。兵器局から無理矢理回してもらった甲斐がある」
 レイズは自分の機体を眺めた。
 ディカイオスとHMA。
 二体がそろって並んでいるのを見るのは初めてだった。
 黄金と純白の美しい装甲。見るものに畏怖の念を抱かせる巨躯。
 そして、その横に立つ、漆黒の機体があった。
 HMA-h2DA/C・ラッシュハードロングのレイズ専用機、“グローネンダール”だ。
「本来は空軍と一部の特殊部隊用の機体だったが、シェーファーにもなって通常機体では格好が付かんからな」
「ええ! 今回の作戦から乗り始める機体ですが、実戦ではどれほどか早く試してみたいです!」
 レイズは純粋な子供のように楽しみそうな表情を見せた。
「そういえば今回の作戦、凄い作戦ですね…」
「ああ…」
 グラムとレイズはこの艦が出港する前の事を思い出していた。




************




 技術者達は頭を抱えていた。
 サンヘドリン上層部からの要請は、『敵の超空間ゲートを破壊、若しくは強制閉鎖できる装置、または武装を開発せよ』と言う物だった。
 しかしそれは難航を極めた。
 不可逆的な性質を持つゲートはこちら側から干渉することが難しいからだ…。