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‎VARIANTAS‎ ACT5 トライデント

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Captur 1

 ドーナツ型の大きな円卓を囲んで座る8人の人々がいる。
 その円卓を、青白い照明が照らし出しており、その周りは深い闇に包まれている。
 その円卓の中心に、一人の若い男。
 円卓に座る一人が、彼に言った。
「勝手な行動は困るのだよ。ロイ君」
「心得ております」
 無機質な表情。
「我々ジェネシックにとって『統合体』は、最大の取引先でもある」
「例の戦争以来、あの方々とのコネクションはより強い物となった」
「信頼関係なのだよ。ロイ君…」
「その信頼関係を損なう原因となり得る事は些細な事でも絶対に回避しなければならない」
「用心に越したことはないのだよ…」
 次々と発言する人々。
 この発言を最後に円卓は闇と供に姿を消し、無機質な何も無い部屋が現れた。
「気の小さい老人達だ…」
 その部屋の中心に立ち、不敵な笑みを見せるロイ。
 その彼の背後に、長身の女性が立った。
「チーフ、今後はどういたしますか?」
 彼は答える。
「エヴァ…私の好きな言葉は何か知っているかい?」
 彼女は答えた。
「『新しい葡萄酒は新しい革袋に』…」
「我々はその『新しい革袋』を作ればいい。新しい葡萄酒は、“彼等”が用意してくれるだろう…」
 彼はそう言って、部屋を出た。




***************




[西暦2188年12月5日、1430時、地球インド洋沖、東、1800㎞]



「スカウトマザー、こちらチャーリースカウト、帰還する」
 インド洋沖の上空を飛行する艦隊所属の海軍機。
 重力を消し去り、強力なスラスターで推力を得る。
 とても空力特性が有るとはいえない形状の機体を、重力制御装置が飛行可能としているのだ。
「偵察データの保存は済んでいるな?」
「はい。完了しています」
 この機体に搭載されているのは電子戦に特化した支援ユニットだ。
 インド洋艦隊に所属するこの機体は日々の任務である偵察観測行動から帰還するところだった。
「ユーザーへ通達。本機後方200kmに異常な重力の歪みを確認」
「なんだ…?センサーの故障じゃないのか?」
「センサーチェック。異常ありません」
「なんだ…?これは…」
「非常に軽微な歪みです。重力センサー感度最大でやっと感知しました」
 肉眼ではまったく確認できないが、そこには確実に異常があった。


 謎の重力異常。
 サンヘドリンの研究者たちが全く答えを見出せない中、その答えは意外な所から出た。




***************




「超空間連結ポテンシャル理論…?」
 グラムが、怪訝そうな表情でそう呟いた。
「ええ、簡単に言えばワープゲートです」
 そう言うグレンに、グラムは言い返す。
「ワープゲートだって? B級SFじゃあるまいし…」
「確かにずっと不可能といわれてきた物ですけど、2168年にゲッペラーゼント=モリナガ博士が偶然発見した理論によって可能となったんです。でもその理論自体が非常に難解で…」
「つまりは非常に困難だが可能という訳なんだな?」
「ええ。莫大なエネルギーと全宇宙を網羅する観測能力が必要ですけど…」
「観測能力?」
 彼がそう言った正にその瞬間。

『愛しているわ…』

 突然グラムの頭の中に声が響いた。
「ぐっ…」
 膝を突くグラム。
 声の波長に合わせるように頭を走る激痛。
 彼が頭を抱え脂汗を流すと、グレンは彼の顔を心配そうに覗き込み、肩に触れようとする。
「た、大佐! ちょっと…大丈夫ですか!?」
「触るな!」
 身体を強張らせるグレン。
 そんな彼女を見て、彼は大きく深呼吸する。
「すまん…大丈夫だ…」
 袖口で汗を拭い身体を起こそうと手を突くグラム。
 彼は突然、床へ倒れこんだ。
「大佐! 大佐!」
 除々に遠のくグレンの声。
 やがてその声は聞こえなくなり、彼は意識を失った。





「君は…一体誰なんだ…?」
 無意識にグラムの頭の中に拡がる『ビジョン』。
 美しい笑顔の女性。
 だが、どこか哀しそうな笑顔。
「君は…?」
 女性のビジョンがそっとグラムの頬に触れた。
 そして今のビジョンがホワイトアウトし、別のビジョンが流れ込む。
 空に開いた巨大な『穴』。
 『何か』の大群。
 その『何か』がグラム=ミラーズ自身に迫った。
「……!」
 次に目に入ったのは真っ白な天井だった。
 目を覚ましたグラムが身体を起こすとそこは医務室のベッドの中で、彼は上半身裸でシーツを掛けられていた。
「やっと起きたのね」
 グラムが横へ目を向けるとそこには白衣を着た髪の長い女性。
「貴方からここに来るなんて、本当に珍しいわ…」
 無言のままの彼。
「まったく…同じ組織にいるのに一年近くも音沙汰無しなんて野暮なんじゃない?」
 一方的に話し続ける彼女。
「あなたが寝てる間、折角何もしないでいてあげたのに…」
 グラムが、やっと口を開く。
「それよりも、早く診断書を書いてくれないか?」
 彼女は笑いながら彼に言った。
「『異常無し』のサインをするのは簡単だけど、それじゃつまらないじゃない?」
 苦笑混じりのグラム。
「相変わらずだな…エレナ…」
 少し寂しそうなエレナ。
「貴方は…変わったわね…グラム…」
 暫くの沈黙。
「いいわ。一応立場上、問診だけするわね」
 彼女はそう言ってから机に腰掛けて脚を組み、診断書の映った記録端末を持った。
「手短に済ますわ。質問には『はい』か『いいえ』で答えて」
 彼女が質問を始める。
「最近、脅迫観念がある」
「いいえ」
「不眠気味だ」
「いいえ」
 次々に出される質問にグラムはすべて『いいえ』で答える。
「じゃあ最後の質問…。最近男性機能に異常がある」
 固まるグラム。
 答えづらい質問。
「…関係あるのか? その質問は…!」
「関係あるわ。精神的なものに起因するのよ。こういうのは」
 憮然とした態度をとる彼に、彼女は冷静に迫る。
「さあ、答えて」
 返答を求めるエレナに、彼は答えた。
「知らん。そんなことを意識して生活していない」
 彼女はその答えを聞いて、不敵な笑みを見せながら彼に言う。
「しょうがないわねぇ…。じゃあエステルに聞くわ」
「やめろ、馬鹿!」
 狼狽するグラム。
 そんな彼に、彼女は追い討ちをかける。
「…それじゃあ…、機能するか、今試してみる?」
 エレナはそう言って、グラムをじっと見つめた。
「悪い冗談だな…エレナ…」
 一笑するグラム。
「悪い冗談…か…。本当に、野暮な男ね…」
 エレナはそう言うと机から降り、診断書に『異常無し』のサインをした。
「貴方は特別だからしょうがないわ。変な夢を見るのも、ビジョンが頭の中に流れ込んでくるのも、全て『能力』のせい」
「そんな事は分かっている…」
 エレナはむっと眉間に皺をよせて、ため息。
「それより…好い加減入ってらっしゃい」
 エレナがそう言うと、医務室のドアがそっと開き、グレンがゆっくりと顔を出した。
「何してるの?早く入ってらっしゃい」
 グレンが、何故か申し訳なさそうに医務室に入ってくる。
「この子、貴方を心配して何度もここに来たのよ? 健気で可愛い子ね」
「手を出すなよ?」