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‎VARIANTAS‎ ACT5 トライデント

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 そこで、技術部は、最後の手段に出た。
 それは、空間連結ポテンシャル理論の産みの親、ゲッペラーゼント=モリナガ博士…、通称Drモリナガに協力を仰ぐこと。
 しかしそれは困難を極めた。
 それは…彼が国家反逆の超重罪人であり、彼自身、連邦最終服役施設で終身冷凍刑に処されているからだ。
 そこで、統合体の出した結論はこうだ。
 『期間限定で仮解凍、面会のみ、面会時間は10分間』
 たった10分間で手段を見出さなければならない。
 そこで白羽の矢が立ったのは…
[12月11日、統合体連邦最終服役施設]

「まさかこんな可愛い子が面会だなんてうれしいよ」
 机を挟み、グレンの前に座る男はそう言って微笑んだ。
 男の背後には、ライフルとショットガンで武装した看守が5人。
 一つしかない出入り口には、屈強な看守が二人。
 男にも、厳重な手錠と足枷が嵌められている。
「みてよ、コレ…」
 男…、Dr.モリナガはグレンに手錠を見せながら言う。
「僕は理系男子だよ? こんな無粋な手錠なんか嵌めて、こいつら脳みそまで筋肉なんだ」
 少々引き気味のグレン。
「あ、あはは、そうですね…」
「そういえば、何の用?」
「ええ、博士を見込んでのご相談なんですが…」
「相談…? そういえば前回解凍された時もキミみたいな女の子…おっと、これ以上言ったら二度と解凍されなくなってしまうな。それで…?」
「空間連結ポテンシャル理論です」
「ポテンシャル理論? ああ、あの枯れた技術ね。あれは理論上可能なだけだよ。つまんないからそれ以上の研究はしなかったけど」
「完成した…といったら驚きますか?」
 モリナガの表情が、軟派な男から険しい真面目な男の表情に変わった。
「何だって?」
「いま、その技術を用いて、ヴァリアンタスが地球に攻撃を仕掛けようとしています」
 突然、モリナガは笑い出した。
「そうか、連中完成させたのか! あっはっはっはっは! そうかそうか!」
「あの、博士?」
「紙とペン」
「え?」
「早く、僕に紙とペンをくれ。閉じ方を教えてあげるよ」
 モリナガはグレンから紙とペンを受け取ると、何かに取り付かれたかのような勢いで紙に数式を書き始めた。
 その数式はメモ帳数ページに及ぶ物で、殴り書きのようだったが、確実に価値の有る物だった。
「はい、コレ。コレをA.C社のスズキってやつに渡してごらん。きっと面白い物を作ってくれるよ」
 数式を見たグレンが、驚いた顔で言う。
「こんな…! こんなに小型のものが可能なんですか!?」
 モリナガがうれしそうに微笑む。
「そう! キミも僕達の仲間か!」
「え? 仲間?」
「天才ってことさ」
 不敵な笑みのモリナガ。10分が過ぎ、モリナガが再び冷凍室に戻るときが来た。
「さて、もうお別れだね。それじゃあ…」
「あの…!」
 グレンがモリナガに頭を下げる。
「ありがとうございました!」
 モリナガは、一瞬寂しそうな笑みを見せてから、看守に引かれていった。
 そのとき、去り際にモリナガは言う。
「スズキ君によろしく」




************



[インド洋上]

「でも大佐…この作戦ちょっと無茶じゃありません?三方向からゲートへ『同時荷重力弾攻撃』なんて…」
 グラムの上申、そして完成した特殊兵器によって最終的に作戦部が発案した作戦が『オペレーション・トライデント』だった。
 この作戦は艦隊を含め、三箇所に配備した部隊から同時にゲートを攻撃すると言うもので、正確に三つ同時に攻撃しなければならない難しい物だ。
「心配するな、レイズ。作戦部も馬鹿じゃないだろう。それに、彼女の考えた方法だ。きっとうまく行く」
 グラムは落ち着いた口調でレイズに言い聞かせると彼は安心した表情で頷いた。
「それにしても彼女…」
「グレンか?」
「ええ、あのグレンって女の子、一体何者なんです?」
「そうだな…彼女はある意味『行き過ぎた人間』…だな…」
「はあ…」
 不思議そうな返事を返すレイズ。
 その頃サラは、グラム達から少し離れた所でレイズの新しい機体を眺めていた。
 『本来は一部の特殊部隊にだけ配備されるチューンナップ機』。
 それが彼に与えられた新しい力だった。
「あれが彼の新しい機体ね?」
 サラの背後から、エステルが彼女に話しかけた。
「貴女は…?」
「私はミラーズ大佐のイクサミコ」
「お姉…さま…?」
 エステルは彼女の横に立ち、話をつづける。
「彼は新しい機体を貰ってどうだったかしら?」
「ええ、とても喜んでいました」
「あなたは?」
「分かりません。ただ…」
 言葉を濁らせるサラ。
「『ただ』?」
「彼が喜んでいるのを見ると、はっきりは分かりませんが、何か…胸の奥が温かくなります」
「そう…」
「でも私には、それが何かわかりません」
 エステルはサラの頬にそっと手を触れて言った。
「いい?サラ…。その暖かさは、彼を守る力なのよ…」
「守る力?」
「そう…。あなたが、その『温かさ』を忘れない限り、貴女はずっと…彼を守ることが出来るわ…」
「お姉さま…」
「健やかに…愛しているわ、可愛い妹達…」
 エステルはサラにこう言うと、グラム達の所に歩いていった。


「いよいよ明日は交戦予測日ですね…」
 グラムに話しかけるレイズ。
 だが、グラムの反応は無かった。
「あのう…大佐?聞いてます?」
「ん?なんだ?」
「どうしたんですか?ぼーっとして…」
 出航する前に、グラムが倒れたことを聞いていたせいからか、心配そうな顔で彼を見据えるレイズ。
 一方グラムは眉間に皺を寄せ、神妙な面持ちを見せていた。
「何か…嫌な予感がしだしてな…」
「大佐…縁起でもないこと言わないでくださいよ…」
「いや…どうでもいい、大した事ない物なんだが…。まあいい…。明日は交戦予測日だ。今日はゆっくり休め。行くぞ、エステル」
 そう言うとグラムはエステルと一緒に扉を出た。
 敬礼して見送るレイズ。
「(聞こえて無いじゃん…)」
 レイズは心の中でそう呟いた。


TO BE CONTINUED...