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Minimum Bout Act.04

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 「やっぱりーー」

 ルーズは警察署内の待合室で、トレインと並んで座っていた。
 先ほど捕まえた男はやはり元軍人で、3年程前までエンド政府軍に在籍していたらしい。残念ながらというか、やはり他の仲間に関する情報は一切漏らさない。

「取りあえずID情報はここに入れといた。でもかなり何重にもセキュリティが張られてるぞ」

 トレインからデータの入ったCDを受け取りながら、ルーズは答える。

「でしょうね。まあ、ウイルス送り込まれてやられる前に逃げるようにするわ」
「お前なら逆に大量のウイルスを向こうに送りつけそうだな」

 目を細めるトレインに笑うと、ルーズは取りあえずドルクバ警察署を出る事にした。

「そんな勿体ない事しないわよ。せっかくの情報をおじゃんにしてどうするのよ。それじゃあこれ、ありがたくもらって行くわね」
「おう、何か分かったらすぐ連絡よこせよ!」
「そっちもね!」

 互いに笑い合うと背を向けて歩き出す。ルーズは足早に街をすり抜けながら、これからやるべき事を整理していた。
 地球に向けて出発する為に必要な物を揃える。そして基地に戻りすぐにIDデータの解析を行なう。

 でもその前に……

 足を止めると、ルーズの目の前に黒塗りの高級車が行く手を塞ぎ、中から夜だというのにサングラスをはめた黒いスーツ姿の男達が数名降りて来た。

「これはまた、随分と歓迎されてるみたいね」

 逃げようかと一瞬考えたが、どうもそうは問屋が下ろしてくれないようだ。
 ルーズを囲むように男達が輪を作り、車の後部座席へと無言で促す。仕方なくルーズは車に乗り込むと、先に座っていた男に気付いて一瞬ビクリと体を萎縮させる。

「久しぶりだな、3年振りか? まさかお前が生きていたなんて、驚いたぞ」

 その男の周囲だけまるで別の空気が流れているようだった。
 暗い車内の所為ではない。男自身が持つ雰囲気がそう感じさせるのか、温度が数度下がったようにすら感じる。
 深緑の長髪はオールバックにされ、後ろで一つにまとめられていて、ルーズを見るその眼光は獲物を狙う肉食獣のように鋭く尖っていた。ブルースの店に現れたのは間違いなくこの男だろう。
 しかしルーズの記憶にはこんな男はいない。

「ーーーちょっと待って。今あなた、久しぶりって言った? 3年振りって?」

 先ほどの男の言葉を思い出したルーズが驚いて目を見開く。男は一瞬訝しそうにルーズを見ると、

「何を言っている? 組織に見つかる前に俺様がお前を見つけ出してやったんだ。まさかあの店主に渡したカードを、まだ見ていないのか?」
「見てないわ。それ以前に私、3年前以前の記憶が無いの。だから、あなたみたいな目つきの悪い男なんて知らない」

 驚いたのは男の方だった。鋭い瞳は丸くなり、急にルーズの両腕を強く掴んで詰め寄る。

「記憶が無い? 本気で言っているのか!?」
「冗談だとしたらかなり高度なジョークよね。あなたみたいないかにも人をたくさん殺してますって男を目の前に、丸腰で叩ける軽口は持ち合わせてないわ」

 閉ざされた車という狭い空間の中、しばらく沈黙が続いた。
 男は言った。
 組織に見つかる前に俺様がお前を見つけ出したとーーーもしかしたら自分は組織の人間だったのだろうか?
 ルーズはこくんと唾を呑み込み、意を決して目の前の男に尋ねる。

「ねえ、あなたは私の事を知っているの? 私は一体何者なの? そしてあなたは誰? 組織って、もしかして……plainの事?」

 ふとルーズから手を離した男は脱力してシートに背中を預けると、口元をあげた。

「俺の名は“ミロ”願いを満たす者だ」
「ミロ……満たす者」

 ルーズが男の名を小声で呟いた時だった。急に外が騒がしくなり、まるでその音に操られるようにドアを開けて外に飛び出した。

「待てっ!」

 ミロがすかさずルーズを追いかける。
 車外に飛び出したルーズの目の前に現れたのは、なんとシンだった。外で待機していたスーツ姿の男達を次々と殴り倒し、驚くルーズの手を掴んで有無を言わさず走り出す。

「シン!? 一体どうしたの!?」

 背後を振り返ると、辛うじてシンの攻撃から逃れた2名とミロが追いかけて来るのが見えた。

「どうしたのはこっちのセリフだ。トレインの所へ行ったらお前は先に帰ったって言うし、カッツに連絡したら何だか知らんが怒鳴られるし、お前に連絡しようとしたら通信がきかないし……」

 近くの脇道に素早く体を滑り込ませ、シンは行く手を阻む高い塀に素早く背を向けると中腰になって体の前で両手を組んだ。

「飛べ! 早くっ!」

 ルーズは頷き、勢いを付けてシンに向かって走ると、シンが組んだ手を踏み台に塀に向かって跳躍した。
 シンがルーズの足を空に向かって投げ出した勢いのおかげで、高い塀を楽に越える事が出来た。塀の上部にしがみつき、追っ手が迫るのを確認して声を上げる。

「急いで!」
「分かって、る!!」

 シンは助走を付けて隣りの建物の壁に向かって飛ぶと、身を翻してルーズが捕まる塀へと飛び移った。

「待てっ!!」

 塀から飛び降りる寸前、ルーズはスーツの男達の後ろからやって来るミロの姿をもう一度脳裏に焼き付けると、シンと共に再び走り出した。
 


作品名:Minimum Bout Act.04 作家名:迫タイラ