おまじない
カナはボクより二つ年上の高校一年生だった。ボクの年齢を聞くと納得したように頷いた。
「やっぱり、中二なんだ。予想通りね」
「どういうこと?」
「まず見た目。それから態度ね」
「そうかな」
「まだ雰囲気が子供よね。で、女性に対する態度が硬い」
「カナも子供じゃん」 ボクは言った。
「私はヒデより大人よ」
「たった二つしか違わないだろう。そんなに違わないよ」
「若い時の二歳って大きいのよ」
「それはわかるけど」
「ヒデはキスもしたことないでしょ?」
「……」
ボクの反応を楽しむようにカナはニヤニヤしながら話した。
ボクは三週間入院した。
その間、ほぼ毎日のようにカナと顔をあわせていろいろな話をした。
入学したばかりの学校を半年だけ通って休学していること、もう三ヶ月も入院していること、文字を読むときは眼鏡が必要なこと、胸が大きくならないことを不満に思っていること……。
ボクは退院後にも週に数度はカナの見舞いに行った。
入院生活の退屈さがわかるし、カナに対して(恋愛感情ではない)親密な感情を持っていた。
カナはほとんどの場合、ボクを笑顔で迎えてくれた。
ただ、数日ボクが病院に行けないと拗ねたような表情・態度でいることがあった。
(カナの方が子供じゃん)
ボクは思ったけれど口には出さない。逆にやり込められるのがわかっているからだ。
ある日、病室の前を通りかかった看護婦が病室を覗き込み、「まるで姉弟みたいね」とからかいの言葉をかけてきた。
「たまには『恋人みたいね』と言ってみたら?」とカナは笑いながら言う。
「そう言われたいのなら考えるわよ」 ニヤリと笑う看護婦。
「とんでもない!」ボクは慌てて否定した。
「ヒデはガキだからねぇ。まだまだ恋愛は無理だわ」
「そうね。まだ子供ね」と看護婦も笑いながら頷く。
「なんで認めるんですか!」 内心少し傷ついたボクは憤慨してみせた。
夕方。すでに窓の外は薄暗くなっていた。
カナの母親は買物に出かけていて病室にはカナと二人きりだった。
それまで何の話をしていたのかよく覚えていない。プロ野球の話? 聖子の新曲の話?
それまでの話から突然話題が変わった。
「私ね、バージンなの」