正直者の末路
私の願い通り、彼女は毎朝私を起こしに来る。食事を摂るために居間までいけなくなったときから、寝室に直接ご膳を運んでくれるようになった。トイレには、自分で何とか行っている。私もまだ若いから、そこまで世話になるのは許せないのだ。しかし、もう肩を借りなければ立ち上がれないほどに弱ってしまったのは事実である。
「君は、私をどう思う?」
一度、そんな質問をしてみた。
仕事にも行かず、治せる病も治さず、娘を一人家に置いてほぼ全ての世話を押し付ける私はいったいどんな人間に映るのか気になった。
蔑みの言葉か、それとも同情か。もしかしたら「興味が無いです」というかもしれないなと、思いついたときは笑ったものだと、嘲笑気味な気分で答えを待った。
「とても正直な人に見えます」
意味不明だった。
彼女曰く、私はとても正直なのだという。
嫌なものは嫌がるし、変に隠したりしない。治るとわかっていた病を治さないのも、世の中の自分ではなく自分の中の自分にどうするか聞いたからでしょう? と彼女はさも当たり前のように、いつもの無表情で言った。
その時は「そうか」と興が殺がれたような気持ちで流してしまったが、ふと思い出せば、あのとき何か言いたそうに唇を結んだ彼女の仕草が少し気になる。今となっては遅い話だが。
私はもう終わりだろう。
最近特にその時を感じるようになった。
まるで階段を上るように、一段一段その時が近づくのを感じるのだ。
外は気持ち良さそうな陽光、手入れのよく行き届いた庭に降り注いでいる。虫たちや小鳥の憩いの場となったのは、彼女が来てからのことだ。それまではただ雑草が生い茂る、空き地同然の空間であった。
今日は本当に気持ち良さそうな陽気じゃないか。こちらの身体も良くなるというものだ。
ふと、襖が開いた。彼女が現れた。
「おや、もうそんな時間か」
お昼が近くなると、彼女は庭の手入れをしに来る。ついでに家庭菜園から昼ご飯に使う野菜を収穫するのだ。
「そうだ、ちょっと肩を貸してくれないか、久しぶりに縁側に座りたくてね」
「ええ」
手馴れた手つきで私の胴を抱え、立ち上がらせてくれる。
最初はとてもぎこちなく、時間もかなりかかったものだが、今ではすぐに立てるようになった。
「久しぶりのお天道様は眩しいな」