正直者の末路
彼女は無表情であることが多い。しかしそれは別に関心を持ってないだけで、人並みに笑うし悩んだりする。大学時代、書きたい表現が上手く表せないと苦しんでいた彼女の姿といったら、それはそれは子猫のようであり、端から見る私たちは影でにやついていたものだ。
彼女が眉間にしわを寄せた顔は、とても可愛い。まぁ、女の子はみんなそうなのだろう。先日の馬鹿な友人はそう言っていた。
しかしながら、それは幸せな悩みのときだ。彼女が深刻に悩んだときの顔は、それはそれは悲しそうになる。
「辞めました」
少しだけ目を丸くしたが、そうなんだと自然に受け止めることができた。
「そっか」
自分も辞めたから。なんていうのはただのエゴだ。職なんて星の数ほどあるんだ、辞めるという事柄だって、それと同じくらいある。
ただ単純に、興味が無いだけかもしれないけど、すごく自然に、驚くことなく受け入れられた。もしかしたら、私は薄情な人間なのかもしれないな。
「じゃあさ」
いや、私はただ自分の都合にとても良かったから、つかえることなく喉を通ったのだろう。
「ここで働かないか?」
そして今に至る。
彼女が来て二年目に私の持病が発覚した。母と同じ病だった。
治らないわけではないらしい。ただ私は死ぬなら死ぬでいいと思った。そこまで生きることに固執してはいなかったし、母と同じ病を持っていたらと、少なからず覚悟はしていた。
発覚してからあっという間に身体を起こせなくなってしまった。これには参った。
家事や食事などは全て彼女がやってくれる。家政婦、というのが職種としては正しいのだろか。私の勝手な偏見ではあるが、家政婦というのは儲かるだろう、ということで、衣食住とは別に給料として月々彼女にお金を支払っている。彼女はこんなにいらないと言ったが、雇うと言った手前、かっこはつけたいものだった。もしかしたら、最初の時点で私は死期を無意識に感じ取っていたのかもしれないな。
病魔は急速に私を蝕んだ。三ヶ月前に、ご厚意に預かり自宅まで診察に来てくださった医師から、もう無理だという話を聞いた。余命三ヶ月、持って四五ヶ月だろうとの話だった。
私も彼女も、変わることは無かった。