正直者の末路
私を縁側に座らせると、彼女はサンダルを履いて庭に出る。水まきをするようだ。
綺麗な光に水分を散りばめると、美しい虹が出来上がる。彼女がクルクルまわると、虹もくるくると現れては消える。とてもファンタジックで、心が洗われるようだった。
水滴の装飾を得た草花は、太陽の光を反射してキラキラと輝く。その光に誘われてか、小鳥たちも自然と集まるのだった。
薄暗い部屋の中で聞く小鳥のさえずりと、間近で聞くさえずりは驚くほど異なるものだ。耳に優しく、しかし適度な刺激を与えてくれる。理想郷。私が思い描く世界は、こんなに美しく、心地よいものである。ややチープではあるがね。
軍手をはめた手でてきぱきと仕事をこなす彼女の顔は相変わらずだが、どことなくいきいきとしているのは気のせいじゃないだろう。
だんだんと寒くなってきてはいるものの、陽の下ではまだまだ暖かい。寝巻き姿の薄着では、涼しい風と相まって、それはそれは気持ちの良いものだ。
「ふぅ」
隣にどさっと小さなかごが置かれる。中には色とりどりの新鮮な野菜が入っている。
「少し休憩します」
「ああ、お疲れ様」
用意周到に、お茶を出してくれた。
それを二人で飲みながら、日向ぼっこをする。おかしな光景だろうなと思う。血の繋がりも無ければ恋仲でもない、主従の関係にある男女が、並んで日向ぼっこだなんて。幸せすぎて笑ってしまう。
「何を笑っているのですか?」
「いや、気持ちが良くてね。人間心も身体も充足しているときは、自然と笑みがこぼれてくるものだろう?」
「……はぁ」
「久々に外に出たら気持ちが良くてね、今日はかなり体調がいいな」
「そうですか」
そっけない返事であっても、口調は優しい。彼女には精神的にも世話をかけさせてもらっている。
「ふむ、少し眠くなってしまった。怠け者はいけないな、食べることと寝ることしかしない」
「そんなことありません」
けらけらと笑って、伸びをする。少し気を緩めれば倒れてしまいそうな身体。私の一挙一動に彼女はピクリと反応する。
にやりと笑い、私は隣にいる彼女の膝元に倒れこむ。
慌てて支えてくれる。頭がふとももに乗っているが、彼女は払いのけようとはしない。丁度膝枕の体制になる。
にやけながら、彼女の顔を見上げる。
「驚きますから、突然倒れないでください」