正直者の末路
「おはようございます」
彼女のほうはすっかりいつもどおりである。顔色も悪くないし姿勢も仕草も問題なしのようだ。
「もう陽が傾いているが・・・・・・ずっといてくれたのか?」
「はい」
「・・・・・・すまないな、ありがとう」
「いいえ。お水、飲みますか?」
女の子を自分の不手際で丸一日も帰さずにいたことに罪悪感を感じながらも、その気遣いがありがたいと思った。
ようやく頭が元通りになってきた頃には陽が暮れてしまっていた。私はどうしてか「帰れ」と言いづらくなってしまい、ただ無言で、彼女を言うまま為すがままにさせていた。
「・・・・・・いただきます」
ついには晩御飯まで作らせてしまった。
普段料理なんてしない性分だ、目の前に並ぶ数々の品がどれも輝いて、圧倒的な美しさをもっていたのは言うまでもない。
「とても美味しいな」
「あ、ありがとうございます」
向かいに座り、同じくご飯を食べる彼女は、どこか照れたような感じだった。誰もそうだろうが、自分が作った料理を「美味しい」と言われるのは、嬉しいだろう。
互いに無言のままの食事、私も苦ではないし、彼女も辛そうではない。お互い一人暮らしだから・・・・・・ん?
ふとあることに気が付いて、血の気が引いた。
そうだ、なぜ当然のことに気がつかなかったのだろうか。
「君! 親御さんは!?」
「え、いますけれども」
「大変だ、丸一日娘さんがいないなんて、心底心配したに違いない、連絡しなくては!」
「大丈夫ですよ」
「大丈夫なわけあるか! 私が親だったら丸一日連絡も無しにいなくなったら気が狂ってしまう」
「いえ、大して心配しないと思うかと」
「いやいやいやいや。これは当然の礼儀でもあった、電話番号は?」
「実家のですか?」
「当然だ! ・・・・・・え?」
「私一人暮らしですけれども」
電話をしてから何を言おうとか何と謝ろうとか、もし彼女の父親が出たら私はどうなってしまうだろうかとかそういういろいろな妄想が全て吹き飛んだ。
今にも立ち上がろうしていた足が、へなへなと力なく崩れた。
とんだ勘違いで良かったと胸をなでおろす。
「しかし、今日は帰らないといけないな。明日は仕事だろう?」
その言葉に、彼女の表情が暗くなった。