正直者の末路
「平気だ。いやはや、私も酔ってしまったみたいだ」
「そこに寝ていてください」
「いや「後輩の前で派手に転んでは恥ずかしいですよ」
彼女は酒豪だった。私よりも飲んでいたのに、ケロリとしており、普通に立ち上がって、寝室へと出てしまった。
しばらく断続的に物音がして、すぐに彼女は戻ってきた。
「布団、出しておきました」
肩を貸されて寝室に連れて行かれると、教えてもいないのに私の布団がきちんと敷いてあった。いつもの雑なものじゃあなく、きちんと綺麗にである。
驚きながらもそれどころじゃない私はそこに寝かされると、急激な眠気に襲われた。
「待て」
薄れていく意識の中で、寝室を出ようとする彼女を静止させる。
「勝手に帰るなよ、一睡だけでもしていきなさい」
しばらく彼女は黙っていたが、やがて諦めたように頭を振った。
「……わかりました。そんな親の仇を見るような目で言われては、断れませんね」
にやりと嘲笑するように言う彼女に、少しばかり憤慨したい気持ちになったが、それよりも眠気が勝った。
「風呂場は勝手に使ってくれてかまわない、小腹が空いたなら冷蔵庫のものを勝手に食べてもらってもいい。私はしばらく寝る」
「わかりました」
襖を閉めるとき、彼女はこちらを向いて、笑みのまま。
「おやすみなさい」
と言った。
私はパタンと閉まる音が聞こえると、瞬く間に眠りの深淵に落ちた。
私が起きたころには、陽は沈み始めていた。
朦朧とする、天地も定かじゃない中、なんとか起き上がる。
地に足が着いている感触は無く、見慣れた部屋であるのにも関わらず、タンスが、襖が、書物が――現実のものなのかわからないのだった。
暗い廊下であった。直接陽の光が入らない廊下であるから、光源は開け放たれた部屋たちが注ぐわずかな光か、もしくは吊るされた裸の電球。昼間使わない電球だ、真っ暗な中、寝室からもれた斜陽の光と、居間から差し込む電気の光が暗闇を照らし、なんとか足元を見えるようにしている。
まだ頭が痛む。
あたかも戦場から帰ってきた兵士のように、居間を覗き込んだ。
「……いたのか」
昨夜空き缶や空き瓶やらが転がっていたが、それはもう綺麗に片付けられ、さらにちらかっていたチラシや雑誌なんかも整頓されている。どれもこれも、机に肘をついてテレビを見ている彼女がやってくれたに違いない。