正直者の末路
ただ、このときは作品を見られたときに「下手」と言われた手前、嘘をついた。
「そうですか。残念です、先輩の句好きだったのに」
「そうか? あまり上手くなくて、面白くなかったろう」
「確かに上手ではありませんでしたが、とっても素直で綺麗な句でした」
「……どうも」
「照れてるんですか?」
「褒められたら、誰だってそうなるだろう?」
「そうですかね」
冷めた口調でそう言うと、彼女はバーボンを一口飲んだ。
その後、酒が入ったこともあってか、話が進み、私の家で飲みなおすことになった。
友人と飲んだときに比べ、大人しく、静かな飲みあいだったが、それでも十分に楽しかった。
時刻は日付を変えてしまい、周りの家は全て寝静まった頃、ふと彼女が言う。
「実は、私も会社辞めたんです」
本人にはかなり大きなことだったのだろう、冷静な口調で、表情も揺らぎが無かったけれども、グラスを置いて下を向いてしまっていた。
「親からは、何も言われませんでした」
けっこうなダメージを受けているようだった。まだ何か言われたほうがましだったのだろう。
それから淡々と、大学を卒業してから今までの経緯を話してくれた。一つ一つ、痛みを吐き出すように感じられたが、実際その口調は冷静で、リズムが乱れることなく淡々としたものだった。
全部言い終えたあと、彼女はグラスに僅かに残っていた清酒を飲み干すと、机の上に伏せてしまった。
表情は見えないが、泣いてるわけじゃあなさそうだった。でも、辛そうではあった。
しばらく沈黙が続き、私も考えあぐねいていると、彼女が起きた。
「はぁ、そろそろ陽が出てしまいますね」
「そうだね、もう五時か」
「始発は何時ですか?」
「ん? 別に泊まっていってもかまわないぞ、これだけ無駄に大きな家だ、開いてる部屋なんていくらでもあるから」
「いえ、そこまで迷惑はかけられません」
「いやいや、今日はたくさん飲んだんだ、寧ろ泊まっていきなさい」
「しかし……」
「電車に揺られて気持ち悪くなったりしたら大変だろう。なに、私のことは気にするな、何もしないし恩を返す必要も無いから」
彼女に反撃を許さぬよう、立ち上がろうとする。しかし、私も相当酔っていたに違いない。立ち上がったとき、ぐらりと視界が歪み、その場に慌ててしゃがみこむ姿勢になってしまった。
「大丈夫ですか?」