正直者の末路
「………そうかい」
私が作ったものだと悟ってほしくはなかった。誰だって「下手」と言われた作品の作者にはなりたくないだろう。
「でも」
まじまじとその句のページを見る彼女は、ぼそりと言う。
「とても正直な句だと思います」
「……それは褒めてるのかい?」
「批評する気はありません。ただ率直な感想を言っているだけです」
「ふーん」
「マイナスな感想ではありませんよ、個人的には好感が持てます」
「……そうかい」
ぶっきらぼうに話を切った。誰だって「褒められた」と思えば嬉しいだろう。
その後、正式にサークルに入り、小さいながらも歓迎会をした。結局彼女は私たちが卒業してからも、サークルにいたみたいだ。
彼女との再会は、五年前にさかのぼる。
大学を卒業してすぐ、母が病に倒れ、そのまま亡くなった。私は卒業とともにある貿易会社で働いていたが、亡くなったことが引き金になったかのように、会社を辞めた。
父は私が生まれる前に亡くなってたと聞いている。大変な資産家であり、私も母もおかげで不自由なく生活していた。だから、会社を辞めたことで生活が苦しくなったわけじゃ無かった。どこに隠していたのか母の遺産もそれはすごいもので、特に働かなければ生きていけないようなことは、これからずっと無いだろうと思った。
しかし、私もただの一般人だ。社会的な立場と言うものもある。しばらくただつつがない生活を送っていたが、また次の年には会社に入りサラリーマンとして働いた。
私はきっと酷く社会に溶け込めない人間なんだろう。
二度目の会社は、二年目を終えること無く退職した。特に大きな失敗をしたわけではなかった。ただ理不尽な仕事内容にしびれをきらし、上司に不服の旨を伝えただけだった。
「嫌なら辞めろ」
そうあっさりと言い捨てられ、次の日未練の欠片も無く辞表を提出した。
「またプー太郎かい」
久々に友人と再会した夜、私の家でのことだった。
私はもとより職が無く、彼も連休なのだということで、その日は酒を飲んでいた。
「あーそうだ、お前覚えてるか一個下の女の子」
一個下の後輩といえば、一人しかいないのだ。
「無愛想な子か? しっかりとじゃあないが、覚えているよ」
「実はな、この前サークルの同窓会があったんだよ」
衝撃的な事実だった。若干のショックを受けた。