正直者の末路
無表情に彼女は「お粗末さまでした」と言い、膳を下げ、また襖を閉めた。
いつもの、毎日の情景である。
大学時代、私が望んだわけではないのに、友人に引きずられ文学を研究するサークルに所属した。望んだわけでもなければそちらの技術に長けているわけでも才能を持っているわけでもない。一般教養程度で知識欲は足りた私にとって、何もすることが無かった。
「君は本当に才能が無いなぁ」
私を巻き込んだ友人に、私の作品を見せたときに言われた言葉だ。
「悪かったな。どうも興味の無いことには身が入らないのだ」
「まぁ、良い作品を作ることが良いことではないよ。とにもかくにも作ることだ。なんとなくこう、もやもやしたものを作品として吐き出すことが大切なんだよ」
「はぁ……」
サークルには私たち二人を含め、十名ほどが参加していた。誰もぱっとしない性格であり、活動自体もそこまで能動的なものではなかった。
僕らが二年に上がるころ、最も人数が多かった四年生がみんな卒業してしまい、ついに六人ほどになってしまった。
しかし、各サークルや同好会がこぞって新入生を狩猟している中に参加しないのがこのサークル。誰も呼びかけなんてものはしない。せいぜい生徒会が発行するサークル紹介の小冊子に小さく名前を入れる程度だった。
そんな中、だった。
狩猟のシーズンが過ぎ、それぞれ狩った新入生たちとオリエンテーションと称した飲み会が始ったころ。静かな部室に、突然の来客があった。
それが彼女だ。
大学なんてものは、規律なんてものはあってないようなものだ。その時部室には私以外に誰もいなかった。
錆付いた扉を開けた先の暗い廊下に、まだ若い彼女が立っていた。部員でも活動を確認する生徒会役員でもない人間に、私は目を丸くしたものだ。
その時の彼女は、すでに今の彼女と同じである。
飾り気の無い清楚な感じの服装に、長い黒髪。ほんの少しだけ目尻がツっている目。そして何より、無口な性格と無表情無愛想。
「これは、俳句ですか?」
誰もいないし、私は長でもなかったから。とくに何もリードしてあげることは無かった。とりあえず部屋に入れて、歴代の部誌などを出して、勝手に読ませていたころに彼女が声をかけてきた。
私が作ったものだった。友人に酷評されたものだ。
「そのつもりで作ったと思うけれども」
「……あまり上手くないですね」