正直者の末路
相変わらず。いつになっても、面白くないやつである。
横転した世界であっても、世界は綺麗で幸せだった。土の匂いも、流れる風も、人間余裕のあるときは、全てが気持ちよく感じられるのだ。
私には悩みが無い。今は。
それは、私は幸せだからということだろうか。
仕事は無く、お金はある。住む場所もあれば食べるものもあり、人間にも恵まれた。少なくとも今現在は、とても幸せで満ち足りている。
「なぁ、私は天国に行けるか」
「どうでしょうね、私は天使じゃないのでわかりません」
「そうか……。きっと私は天国には行けないだろうな」
「なぜです?」
「今がすごく素晴らしいからだ。体たらくの人間が、極楽に行っては他の方に申し訳ないだろう?」
「そんなこと、どうでもいいと思いますが」
「天国は個室じゃないんだよ、きっと」
「そうですか」
「そうだろう。多分。――だから私は今この極楽を満喫することにしたい」
「はぁ」
「しばらくこのままで寝かせてくれないか? とても眠くてな」
「……ええ、かまいませんよ」
「ふふ、何もしないさ。本当に眠いだけだから」
「そんな心配はしてません」
「そうか? ならいいんだ」
彼女の柔らかい大腿に頭をうずめて、視線は庭のまま、だんだんと目をつぶる。
綺麗な世界は、まぶたを閉じても綺麗なまま映るのだった。
笑みを浮かべて寝ることにしよう。
それほどまでに、私は嬉しい。
誰もが私のことを正直者と言った。
だが、私は私のことを正直者と言ったことは一度もない。
私は、正直者と呼ばれるにふさわしくない。
なぜなら私は嘘をつくからだ。ありとあらゆる場所で、いろんな人に、いろんな嘘をついた。
私は隠し事をする。常に、影で、こっそりと、ばれないように。
ただ死ぬ間際くらいは、正直にしたいと思った。なに、ただの願望さ。
でも母は今際の言葉に。
「あなたは正直な人ね。思っていることがすぐに顔に出るもの。悲しいのね、ほら、今も泣いてるわ」
と言った。