七変化遁走曲
「さて、折角のお菓子です。頂きましょう。巡る季節を楽しむのも、ヒトの役目ですよ」
うずうずと楊枝を手にする紺屋さんにつられて、あたしもテーブルの上を見渡した。職人が手間をかけて形作ったそれこそが季節の一片だった。
紫陽花の姿、天の川の流れ。どちらも美しく、口にするのさえ勿体ない気がする。けれどこうして、四季を楽しむことがあたしたちには出来る。
「はい」
見上げた狐さえも、柔らかい眼差し。ずっと多くの季節を眺めてきただろうその眼が、同じようにあたしを見る。
そして、ふと考える。
来年のあたし、再来年のあたしたち。たとえば高校生でなくなった自分は、一体何をしているのだろう。
季節だけじゃなく、変わらないものなんてない。そんな限りある時間の中で、『浅見翠仙』はどのように歩いて行けばいいのだろうか。
その日の夕刻、深砂鷺からの帰り道。すっかり長くなった日照時間に安堵して、橙色を滲ませた空の下を歩いた。
巡っていく季節を、また追いかけて。
翳った辻の片隅に、茶色く枯れてしまった紫陽花の姿を見た。
END.