小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

七変化遁走曲

INDEX|53ページ/70ページ|

次のページ前のページ
 

「なんかおかしい」
 ちょっと棘っぽいあたしの言い方に、常葉は戸惑いながらも問い返してくれる。
「なにが?」
「常葉も、足りないって思ってるんでしょ」

 確かに、今の時点でこの中で一番答えに近いのは牡丹の掛け軸に見える。けれど、あたしたちが探しているのは近いものじゃなくて、それそのもののはず。それともただ単に何かを見落としているのか。見落としているならどの時点で?そもそも、導き出した二首で合っていたの?
「見落としているものがあるはず。アジサイ、私から彼へ。橘、八重――」

 どんどん深みに嵌っていく。
 あともう一言、もうひとつでいいから、何か決定的なものがあれば。

「――とにかく。今日はここまでにしよう。この掛け軸は土曜日に君と一緒に陽花さんの所へ持っていく。それまでにもう少し何かないか、僕が調べておくよ。それでいい?」

 それは明らかに妥協点だったけれど、ここで立ち尽くしても見つかるはずはないのだから、あたしもゆっくりと彼の言葉に賛同した。
 絶対に、取り零している何かがあるはずだ。
 何かが。あたしたちを導いてくれる言葉が。

 再び蔵に施錠して、後ろ髪を引かれる思いのまま庭を横切った。紫陽花は次第にその色味を失いつつあって、代わりに純白の百合の花が悠然とその花弁を揺らしている。
 紫陽花の時期はもう、終わりに近づいている。
作品名:七変化遁走曲 作家名:篠宮あさと