七変化遁走曲
真っ白な制服に身を包み、正面口を押し開ける。
鞄はOK、お弁当も持った。体育はないのでジャージも必要ない。建物の外は既に真夏の真昼のごとき日光で照らされていて、どこからか蝉の声でも聞こえるかと思ったけれど、さすがにそこまではいかなかった。
「いってきま――」
「待って、翠仙」
右足を踏み出す途中に、背後から追いかけてきた声。怪訝に思って振り返れば、階段の上からやや足早に常葉gが下りてきていた。
何か忘れ物があっただろうか?とっさに頭を巡らせるけれど、やっぱり思いつかない。そうこうしているうちに、エプロンを外した彼がすぐ目の前まで辿り着く。
「なに? どうかした?」
後ろ髪の束を解きながら、常葉は答える。
「さっきの話もあるし、送っていくよ」
ぽかんと間抜けに大口を開けて、それから思い出すのは、友達に興味本位で囃し立てられたいつかの放課後のこと。どうしてわざわざ、と尋ねれば、さも当たり前のように眉の端を上げる狐の顔。
「送るって、まさか学校まで?」
「陽花さんも言っていた通り、時間がない。まぁそれについても、歩きながら話そう」
有無を言わさずに、あたしの支えていたドアノブをするりと持ち替える。
呆然としているうちに狐は、高校生本人よりも先に立ってすたすた歩き始めた。