七変化遁走曲
翌日もその翌日も、常葉はあたしが学校に行っている日中に一人で君不来池周辺へ調査に出ていた。
翌日は晴れたものの、その次の日は雨。晴れ間のうちに実際に(本当に)潜ったこともあったようだけれど、やはりこれといって君来池の正体は明らかにならない。
「どうやら、何かの伝承が絡んでいるようだけれど」
近辺の資料館にまで足を運んで、手に入ったのはこの程度。次はその伝承について調べてみる、という報告を受けた後、あたしはひとり自分の生活スペースに戻った。
だって、いかにも『勉強しろ』って顔をしてるんだもの。
とは言え、夕食後のこの時間はなんだか眠たい。加えて一向に進展できない依頼のことも気にかかって、毎夜シャープペンシルを握る指先が重いのだ。
時計の針だけが、のろのろと回っていく。何気なく首を巡らせば、先日陽花さんに貰った陶器の盃が目に入った。埃避けに布をかけていたのに、いつの間にかその表面が蛍光管の光を反射している。綺麗だけれど、落として割ってしまったら元も子もない。せっかくだからと元通り箱に仕舞っておくことにした。
それからは気分転換にベッドに飛び込んだり、天井を見ながら祝詞の暗唱をしてみたり。枕元においてあった文庫本に手を伸ばしかけて、自分を叱咤したり。冷蔵庫から引っ張り出してきたウーロン茶で喉を潤したり、よし!と意気込んで机に挑んでみたり。
それでも、うん、数日前よりははかどっている気がしなくもない。
あくまで、数日前よりは、というだけだけれど。
そうこうしているうちに、これまた翌日、三日後の夜。
昼間の晴れ空は夕方になれば怪しくなって、黄昏時を越える頃にはついにしとしと梅雨の闇。
だから、多分、そのせいなんだと思う。
音もなく振り続ける静かな雨が。
慣れもしない勉強に精を出しているあたしを、いとも簡単に夢の中に引き摺り込んでしまったのだと。