彼と私の宇宙旅行
事故から意識を取り戻した私は三つのことに気付いた。
一つ目は右腕の感覚が一切無いこと。これはすぐに『右腕がもう無い』からだと気付かされた。それなのに鈍い痛みだけは今でも残っている。
二つ目は、宇宙にはもう行けなくなったということ。最低でも宇宙環境に耐えうる義腕を付けない限り、隻腕では未だ宇宙は厳しい環境だった。会社からも見舞い金と退職金が一緒に送られてきていた。血も涙も無いと思ったが、宇宙開拓時代である今、お荷物は抱えられないということだろうと自分を納得させた。
そして一番不思議だった三つ目は、毎日見舞いの花が変わること。完全に被害者だった私は、それが加害者かその縁者によるものかと思っていたが、程なくして事故は偶然の重なりによる加害者不在の不幸であったと知らされた。
さらにしばらくして、ようやくその見舞い人の正体が、名も知らなかった訓練校の同窓生だと知った。彼もまた不幸な事故で視力を大幅に落とし、宇宙の最先端で活躍する夢を断たれた人だった。それ故、事情を小耳に挟んだ手前、私のことを放っておけなかったのだ、と切なげに彼は笑った。
彼との付き合いは、お互いを慰めあうものだった。現実から目を背け続ける、切なくて苦しい関係。それなのにお互いの温かさを忘れられずに断ち切ることが出来ない。
ある時、彼は歌うように言った。
「死んだら、宇宙の最前線に行けるだろうか♪」
私は彼の言葉には答えずに、完成したばかりの義腕でぎこちなく彼を抱きしめ、口づけた。
それから三日後、私は彼の部屋で死に掛けの彼と〝毒薬〟の小瓶を見つけて救急車を呼んだ。
彼は一命を取り留めたが、記憶と正気を失った。