彼と私の宇宙旅行
外でクラクションが鳴っている。
よく見ると携帯には三度も彼からの着信が入っていた。居眠りをしていたようだ。
慌ててモニターの電源を落とすと、姿見の前で全身をくまなくチェックしてから玄関へと小走りに向かう。扉を開けるとそこには上下真っ赤なスーツで固めた彼が立っていた。何か赤にまつわる出来事でもあったのだろう。カニを食べたとか。
私は頭を下げて謝る。
「ごめんなさい、気持ちよくなって寝てしまっていたみたい」
「あぁ、なんだ寝ていたのか。もしかしたら死んでしまったのかと思って危うく警察を呼ぶところだったよ! 地球には危険がまだまだたくさんあるからね」
彼は笑いながら私の手を取って車に案内する。彼は私の義腕を気にしない。
「今日はお花畑を紹介してくれるんだろう? 昨日は興奮で眠れなかったよ! しょうがないから僕は〝宇宙船〟を三回も点検してしまった!」
彼は自分の車を〝宇宙船〟という。若者にもお買い求め易い国産車だけど。
「どうも君を乗せると思うと過剰に心配性になってしまう。もしかしたら地球の微小な生物たちが我が〝宇宙船〟に入り込んで悪さをしてないだろうか、とかね。気になると止まらないんだ。これも〝火星人〟である僕が地球を信用し切れていないという証左なのかも知れないね!」
彼は自分を〝火星人〟という。ご両親もご健在な、純粋日本人なんだけど。
「えぇ、もしかしたらね。じゃあ、今日も運転をお願いするね。行き先は今登録するから」
毎週日曜日。朝の十時に私の家の前で待ち合わせ。デートのプランは私。運転は彼。
テーマは〝火星人である彼に地球を紹介する〟。
それが私たち二人の〝お付き合い〟。