男女平等地獄絵図
…。
「…はぁ。そりゃ助かる…。」
確かに大ベテラン?がついててくれる方が色々安心だ。それにマコ怖いし…。
ちらっとマコを見るとすっかりふてくされて舌をうちまくっていた。女って怖いなぁ。
それなのにヤマは全く気にせずにかっと微笑むのだった。
「さあさいくぞ椿!美しくみがかねばな。閻魔は暇じゃない。…それではマコよ失礼!」
ヤマは私の腕をひっつかみふわりと地獄の門を押した。
随分重たそうなのにヤマは片手で軽く押している程度だ。
ドアはギギィーッと嫌な音をたて開いた。
「…あれ。」
そこには8畳ほどの空間に6つのドアがあるだけだった。床も壁も天井も皆薄汚れた同じ色の大理石で敷き詰められている。…装飾もなにもない。
私はあまりのあっけなさに力が抜けた。
ヤマは慣れた手付きでパチリと指をならした。
途端に全部のドアが一気にバンッと開く。
「あれっ。」
…さっきのあれ。とは意味が違う。
私は本当に驚いたのだ。
6つのドアの先、その全てが今私たちの立つこの部屋と全く同じだった。
…そっくりそのままコピーしたみたいに。
ヤマは真左の部屋に入りながら説明しだす。
「いいか。この私たちが立っている形態の部屋が控えの間。…控えの間ははっきり言って無数にある。でも鬼及び閻魔及び天人たちには本能的に道がわかるから安心しろ。…で、こっから先のドアは別に全てが控えの間と繋がってるわけじゃない。いきなり熱地獄に出たりするから。…でもまぁそれらはおいおい覚えるからまずは閻魔の部屋と裁判の間に案内するかな。」
私が頭の整理をする前にヤマはまたバンバンとすごい勢いでドアをあけだした。
また控えの間、また控えの間、また控えの間…。
頭がくらくらしてきた。
一体地獄はどんだけ広いんだ?
ヤマは平気な顔でずんずん前に進みながら(ドアはヤマが近付くと自動ドアみたいにバンバン勝手に開いていった。)ぺらぺら話かけてくる。
私は次第に眠たくなってきた。
また控えの間、また…
「裁判の間や閻魔の部屋みたいに重要なところはな、かなり奥まったところにあるのだ。いつ馬鹿なやからが馬鹿なことをしにくるからわからんからな。まぁそれとは関係なく危険だから遠く離れている部屋もあるんだが。」
「…へー…」
…また…控えの…
バフンッ
「うぶっ」
ヤマが急停止したせいで背中にぶつかった。
「なんなんだよっ痛いだろっ」
「ふー。到着したぞ。」
「えっ…」
ドアの先には有り得ない世界。
部屋はまるで廊下の様に長く長く、彼方まで続いている。
5mごと位に浮かぶ紅い炎がほの暗い部屋をゆらゆらと照らしていた。
そして…両脇には鬼と人間が交互にずらーっと立ち並んでいた。
なにやら忙しげに資料を読み込む鬼もいる。
ヤマと私はその通路の様な部屋のど真ん中をずんずんと歩いていった。
「なんなんなんだここはっ」
「ここが裁判の間。皆裁判待ちっていうか私待ちだ。ははっ。」
「ははっじゃないだろ!ていうかなんでこんな鬼と人間が交互に並んでんだ?」
ヤマはまたはははと笑った。
「彼等の腕をよくみてごらん。」
「ん?…あ。」
どの鬼も人も2人1組になって長い手錠をつけていた。
「手錠だ。」
「そういうことっ。罪人のなかには大馬鹿者も多いからな。…おぉ憐花わかってるわかってる…だから後で聞くよ柚木…」
ヤマは行く先々で怒った顔の鬼に話しかけられていた。
そしてその全てを軽やかにかわしていた。
「やれやれ全く仕事がたまりにたまっているな。まぁ椿よ頑張りたまえ。」
「えぇっ。ひどいっ。鬼っ。…鬼、といえば…皆なんでこんな美白なんだ?」
ずーっと気になっていたんだがどの鬼もどの鬼も皆美白で美肌だった。…マコといいヤマといい。
うらやましいなぁ。
こんだけ美女の鬼が多いと壮観だな。
ちらっと前を見やるとヤマはまたぶはっと吹き出していた。
「…くくく。まぁな。地獄には太陽がないから白くもなる。」
「…あっ…。」
なるほど。
そういうことか。
ずっと気になってたことがやっと判明しなんだかすっきりした。
…そういえばヤマはまだ手をはなさない。
「…いい加減歩き飽きたな。まぁ椿もそろそろ慣れただろ。」
「んー…どうだろ。」
ヤマの手は綺麗だけど男の人みたいに大きい。
…それに背も高いし。まぁ胸もでかいけど。
「椿、左手もだせ。」
「へ?はい」
ヤマは私の両手をひっつかみふわりと体を持ち上げた。
そしてしっかりと抱きしめジャンプする。
「うぎゃあっ」
「飛ぶぞ」
ひゅんひゅんと周りの風景が過ぎていく。
私は怖くてヤマにしがみついた。
その感触は胸は当たるのにまるで父さんみたいだった。
(…なんかヤマって…男の人みたいだな。)
でも確か地獄には女しかいなかったな。
かくいう私も男まさりだけど…。
まさか閻魔って男まさりしかなれないんだろうか。
(それってあんまり嬉しくないよなうな…。)