男女平等地獄絵図
ヤマはにやにやとしていた。
その姿さえはたから見れば美しい。
…彼女は予定外の好展開に喜んでいたのだ。
まだ誰も知らない!…そう誰も。
しかしその幸せ気分も目の前の空席を見ると萎えてしまう。
今日はあのイケスカナイやつとの食事会なのだ。
ヤマはやつが大の苦手だった。
…どうにも面倒くさいタイプなのだ。特にヤマのようなタイプにとってはなおさら。
(できるならば…逃げ出したいな。)
ヤマは凝った細工の窓を眺めた。外は曇っている。
…しかしそれは不可能だ。
なぜなら相手は極楽の元締め(?)なのだから。
それに極めて業務的な話だとか、秘密がきちんと継続して守られているかだとか、こちらがわからしても色々と定期的に話さざるをえないのだ。
(…だがそれも今日で最後。)
ヤマは紅い竹の扇で軽く自分を扇ぎ、またにやりとした。
コンコン
(おっと…)
阿弥陀様の到着だ。
「失礼、遅れた。」
阿弥陀はしゃなりと席につく。
淡い茶色の柔らかい髪。少し焼けたなめらかな肌。
大きな瞳が一際際立つ恐ろしく整った顔立ちの好青年だ。
ヤマはふんと鼻をならし前をみた。
…阿弥陀はいつも通り平然とし、一瞬停止した。
しかし、また冷静な表情に戻る。
ヤマはその表情の変化を逃さなかった。
「もう気付いた?さすがだね。」
まるで悪戯が成功した子供のような態度だ。
対する阿弥陀はすぅっとよく磨いだナイフのようにヤマを睨んだ。
「いつのまに引退したんだ?元閻魔大王殿は。…そもそもの取り決めは忘れたと言うのか。本末転倒も甚だしい。」
ヤマは笑顔を崩さない。
そして扇でぴしりと相手を指した。
「知ってるか?まぁ知っているだろうな!昔の日本国にはな、院政というものがあったんだ。…それで言うならばいわゆる私は上皇だよ。実質的な権威は私にある。これで異存はなかろう?」
ヤマは少年のようにもう一度微笑む。
「…阿呆だな。」
阿弥陀は声もなく、大人びた少女のように苦笑いした。