男女平等地獄絵図
「…」
私は黙々と歩く。
色々と混乱しているのだ。
色々と。
…そして、なぜだかヤマも妙に黙りこくっていた。
「…椿。」
ヤマは小さく囁く様にして私を呼んだ。
「…ん?」
「…よく頑張ったな。」
…私は目を見開いた。
そう、ヤマは私を慰めていたのだ。
私がさぞ『悲しんで』いるだろうと。
「…」
私はヤマをちらりと見上げる。
「…ありがと、ヤマ。」
「え?」
「恋人役なんてやらせちゃって悪かったな。おまけに髪型まで短く変えてもらっちゃったし。」
ヤマはにこっと笑う。
私はドギマギしてしまう。
そうだ、文句を言い忘れてた。と、慌てて口を尖らせる。
「…でもさ、あれはちょっとやりすぎだろ。『僕が椿さんにべた惚れなんですよ。』だって!アハハハハッ」
私はあの時のヤマのもの言いを真似して笑った。
我ながら白々しい渇いた笑いになった。
「…あっあれじゃまるでヤマが男の人みたいじゃないか。」
「男だよ。」
ヤマがしれっと言う。
私は思わず口をつぐむ。
「…なっなんだよ、たっ確かにまぁそうだけどさ…。もういいよっ元のへんてこな話かたに戻れよっ」
「どうしようかな。」
「なっ…、…。」
「この口調だと椿の反応が面白いからね。地獄に着くまで当分これでいこうかな。嫌?」
ヤマはにやっと笑った。
私は呼吸困難の金魚みたく口をパクパクさせている。
私は混乱していた。
…悲しくなかったのだ、ちっとも。
誰かを思う奏を見ても。
おまけに、…ヤマはこんなだし。
「いっ嫌に決まってるだろっ。…とっところでさ…なんでせっかく平等な地獄にしたのに私を閻魔にしちゃったんだ?私は女だぞ。これじゃまた元通りじゃないか。」
「一目惚れ。」
ヤマは両手を頭の後ろに回してとぼけた言い方をする。
スーツと髪型のせいで一層手足が長く見えた。
夕焼けがふわりとヤマを包んでいる。
地獄では決して見られない光景だ。
「じょっ…冗談を言うなっ」
「半分は本当だよ。…あとの半分は、元に戻そうと思って。」
「…」
「いつまでもこの状態ってわけにはいかない。徐々に男女混合の天界に戻してかなきゃ。それには霊力が強くて俺の魔力を受け止められる人間に閻魔業をまかす必要があった。あれこれ画策しながら同時に人間を裁くとなると結局膨大な時間を要することになるから。その人間が一人立ち出来たところでその計画に本腰入れようと思ってたんだ。…それが椿。」
「…」
ヤマはまたにやっと笑い、ぽかんと話を聞いていた私にキスをした。
「ほら、これがほんとの男女平等なのだよ。」