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男女平等地獄絵図

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ヤマは焦っていた。
―椿がいない。
 やはりまたあの男が来たのだ。
ヤマは自分に反感をもつ者達の存在を少なからず把握していた。
それでもあの少女なら…椿なら上手くやれると信じていた。

だからこそ、ずっと秘密を洩らしたりなどしなかった。
なのに、だ。
ヤマはしくじった。
信じていたはずの椿から目が離せなくなった。
自らの力に任せ、放任するはずだったのに。

…椿の様子がおかしくなったことにも気付いていた。
でも大丈夫だと思っていたのだ。
―なのに…。



ヤマは地獄中を駆けめぐる。
焦っている自分に驚いた。


「…何故だ?!…何故呼ばない!!!」


―…何故私を呼ばない?椿!!!!!!


「…」



ヤマは下を向く。
もう一度、意識を集中させる。

「…ま…」


「…」


(…あぁ…)


―いた。


「…椿…」


椿は大量の血をその白い肌にまとい、腕を縛られた状態で泣きじゃくっていた。
着ていたはずの衣服ははぎとられている。
ヤマはフラフラと椿に近付いて行った。

「…つば…」

男の気配が全くしない。
―…まさか。
 まさか椿がここまで力をつけていたとは。

(ビジョンが…見えてしまう。)

「やま…」

「椿…」

椿は血で紅く染まった口を震わせる。
彼女はほんの少し前まで、生きた血の通う、単なる少女だったというのに。

…ヤマは自分がその少女を引きずり込んだという事実に初めて怒りを覚えた。
そして、そんな自分にまた動揺をしていた。


椿は、色素の薄い茶色がかった美しい瞳にたくさんの滴をため、すがるように呟いた。


「…ヤマ、本当は…男の子なんだろ?」

「…」

「ヤマっ…」




ヤマは術を解く。
己の魔力が最大限にまで引き延ばされる感覚がヤマの体を包んだ。

「…ヤ…」


ヤマは椿の唇に染みついた血痕を擦り落とす。
そして自分の唇をそこにあて、少女に魔力を送った。



作品名:男女平等地獄絵図 作家名:川口暁