男女平等地獄絵図
「…痛い。」
私は自分の寝言で目覚めた。
何だか手首が痛いのだ。
「…」
そういえば手首だけじゃなく足首も痛い。
なんなんだろう。コムラガエリか?
「…」
ハッと目を見開く。
…そこには見慣れた天井など存在しなかった。
そこは、どこまでも続く真っ暗な空間だった。
…そして私は両手両足が縛られていたのだ。
「…まじか…」
私は呆然と呟く。
全く状況が掴めない。
ここはどこなんだ?
ひやりとする…一応は地獄だろうか。
チェックのYシャツに半ズボンという格好で仕事をしていた私にはいささか寒すぎた。
「…おいっ誰か…ヤ」
…いや。
どうなんだこれ?
こんないつもいつもヤマを頼っていていいのか?
そうだ。
もうちょっと自分だけで頑張ってみよう。
どうしても無理だと思ってから呼んでも遅くはない。
…私は私の手足を縛っているロープをなんとかほどこうと暴れた。
が、ガッチリついている。
やっぱり私を縛ったやつも侮れん。
でも私のことはちょっとばかし侮っていたようだ。
私は体も軟らかいし歯も丈夫なんだぞ。
足を横に流し、体をぺったりと折り曲げてロープを噛む。
手は後ろで縛られていて無理そうだが、足ならなんとか上手くいくかも。
ガジガジとかじる。
歯茎も痛い。
でもいい感じになってきた。
ヤマのスルメをこっそりつまみぐいしていたおかげかもしれない。
「ふんっ」
ブチッ
ペッペッと縄の繊維を吐きだす。
上手くいった。
よっこらせと立ち上がり、周りを見渡す。
(…)
「また背後か」
私は後ろからそっと近寄ってきた猫男に呟いた。
猫男は、アーア足ほどいちゃってるし、と笑った。
「…今度はヤマの姿か。悪趣味だな。だいたい本物に比べるとオーラがなさすぎるぞ?」
「うるさいな。いいんだよ少しでも君がやりにくくなれば。それに僕はこいつが大嫌いだからね。でもお前はもっと嫌いだ。目障りだ。何でお前の様な人間の分際で場もわきまえず地獄のトップに立つ?女など要らない。極楽にも地獄にも。」
「男女差別か?」
鼻で笑うしかない。
猫男は微かに眉毛を上げた。
「…そんな風に言ってられるのも今のうちだよ。知ってる?閻魔の魔力の奪いかた。閻魔の魔力はね、口から移動するんだ。…僕が、俺が閻魔になってやるよ。」
「っ」
…どうしよう、ヤマを呼べばよ
かった。
こんなオーラの無い偽ヤマに、唇を奪われるとは。