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男女平等地獄絵図

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「待て待て椿!」

ヤマが走って追い掛けてくる。
私は下唇をぐっと噛み締め逃げた。
…あぁ。

ヤマは気付かない。
それとも気付いてはいるのか。
構わずに背後から声を投げかける。

「椿っ…そういえば、椿は最初猫男になんて言おうとしてたんだ?」

ん?

「…見てたの?」

「うん。」

「うんって…。じゃあなんですぐに迎えに来てくれなかったんだよ!」

ヤマは寂しそうに微笑んだ。
その表情に思わず怯んでしまう。

「…すまんな。ちょっと色々作戦があったんだ。想定外の事態だったんだが、それを利用してもいいかな…と。で、なんて言おうとしてたんだ?」

「…あ…」

私は振り向かないまま立ち止まった。
ヤマにはお見通しかもしれない。
でもこうもはっきり聞かれたら…。
あぁ。


「…奏、が」

「…うん」

「奏が…」

「奏が?」

奏が。



「…死んじゃったのかと思った。」

「…そうか。」

ヤマは頭をがしがし撫でた。

「…よかった…。奏が偽者で…。」

私は声が震えないように気を付けた。
ヤマはでも、私の涙に気付いているようだった。

「…よしよし。」

「…」


ヤマは偽奏がしたように後ろから私を抱き締めた。
でも、もっと優しかった。

「おかしなやつだな。自分はもう死んでるのに。会う手間が省けるじゃないか。」

ヤマは心底嬉しそうに呟く。
…けれど私も気付いていた。
違和感の正体に。

もし今生きていたら、きっと心臓がドクドクと脈打っていただろう。
そのくらい動揺していた。

「…ヤマ、もしかして急いで来た?」

「あったりまえだとも。まさか椿のおっぱいが丸見えになるとは思わなかったからな。」

「そっそれはいいんだ…。」

私は本当にかなり動揺していた。
抱き締められて確信した。

…そう、胸がなかったのだ。ヤマに。



作品名:男女平等地獄絵図 作家名:川口暁