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男女平等地獄絵図

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フッと気付くと私達は花畑にいた。
真っ白な空間の花畑。
土なんてないのに柔らかな土みたいな感触。
死んだ直後に着いた花畑よりもずっと明るい空気がここには流れている。
周囲は人間が沢山いて、皆寝そべって語らったり花の冠を作ったり歌を歌ったりしていた。
皆が皆にこにこと微笑んでいる。
子供がパッと立ち上がり、老人に向かって駆け出した。
皆がそれを優しく眺めている。
なんだか不思議な場所だ。
…綺麗な絵みたい。

「…これが極楽…」

「のほんの一部です」

と羅刹天が言うが早いかまた別の場所に来ていた。

…そこには男しかいなかった。
しかも皆何やら忙しそうにしていて、私達の方を見向きもしない。

(…いや)

わざとだな。

「この先だな」

ヤマは溜め息をつきつつ先に進む。
そんなに阿弥陀様ってのは恐いやつなんだろうか?
極楽の神様ならもっと柔らかく包みこんでくれそうな気がするのに。
ヤマは何をこんなに恐れているんだろう。

「あの」

「え?」

突然男が話しかけて来た。
瞬間に水翁が私を引っ張った。

「ぎゃっ」

ドンッッッッッッッッッ…













「あ…?」

真っ暗だぞ…?


「参りましたねぇ」

きょときょとすると声の主は真横にいた。
水翁だ。
まだ私の腕を握っている。

「ここはどこだ?皆は?」

「…地獄だ。」

答えたのは羅刹天だった。
そういえばヤマの気配がしない。

「え?何で…」

「椿さまがね、さっきの誰かさんに顔を刺されそうだったんだよ。…一応死人は死なないけど傷付けるくらいはできるんだ。厄介な武器がたまに出回ってるからその類かな。だから僕が手を引っ張った。そしたら足元に歪みが作られてたらしくてね。近くにいて僕らを助けようとした羅刹天様と僕らだけ落っこっちゃったんだ。二重の罠なんてめんどくさいことするねぇ。あ、すみませんタメ口になっちゃった。」

そんなことはどうでもいい。
何てこったとはこのことだ。
案の定護衛を巻き込んでしまった。
おまけに…

よりによってヤマがいないなんて。


と、そこまで考えて単純なことに気が付いた。

「…ん?」

「なんですか。」

「地獄なら別に問題ないんじゃないか?」

一応私閻魔だし、それに羅刹天がいる。
庭の様な…と言ったら大嘘だけど。

「厄介です。」

そんな私の脳天来な発言とは裏腹に羅刹天はむすっと返事した。
顔はよく見えないけど声だけで機嫌の悪さがよくわかる。

「よく前を見て下さい。」

「ん…?」

暗闇に目を凝らす。
しばらくするとだんだん周囲がはっきりとしてきた。

「…」

もやもやと動めく巨体。
…悲鳴。

「うわっ…」

象だ!
なんかおかしいくらいでかい象だ!
しかも鉄で出来ている。
可愛らしさの欠片もない容貌をしている。

「…っ…」

象はぐしゃりと何かを踏み潰していた。
けれど私の理性が「それ」を直視するのを決して許そうとしない。
赤いものが飛び散ったかと思うと「それ」は消滅した。

吐気がこみあげてくる。
嫌な臭いが充満している。
そして私は全く自覚が足りなかったことを思い知る。

…そうだ、これが地獄なのだ。

物を盗んではいけない。
他人を傷付けてはいけない。
生物を殺してはいけない。
全ての理由はここにある。


…涙と吐気を堪えていると羅刹天が口を開いた。

「…ここは衆合地獄。等活、黒縄のさらに下に位置しています。ここでの罪人の寿命は106兆5800億年。罪状は殺生、盗みに加え邪淫。」



「じゃ…?」

「いやらしーことってことだよ椿様!」

水翁がパチッとウィンクした。

羅刹天は淡々と説明を続ける。

「あちらには…遠くてここからでは見えないでしょうが、相対する鉄の山があります。簡単に言うとそれが度々両側から崩れ落ちてきて罪人を圧殺します。それはいいとして一つ大問題が…」

いや全然よくないだろ。

…羅刹天がぴしりとどこかを指差した。

指の先には果てしなく広がるテラテラと光った林があった。
異様な光景だ。
嫌に眩しいのでよく見てみる。

「…木?…木が!木がなんか変だ。」


葉っぱが剣になっているのだ。

…しかもそこを裸の男たちが全力疾走している。
大量の刃の中を、だ。
体中から血が溢れだし酷い有り様になっているのにひたすら走り続ける。瞳だけが爛々としていた。

(何かから…逃げているのか?)

それにしては先を見つめ過ぎてるけども…。
あっちには何が?


「…あ。」

その先を見てすぐに合点がいった。


逆だ。
何かを「追い掛けて」いるのだ。


作品名:男女平等地獄絵図 作家名:川口暁