男女平等地獄絵図
そこに居たのは美女だった。
どのくらいの美女かというとヤマくらいの美女で、つまりは想像を絶する美女だ。
にこりと微笑み、罪人たちに手招きをする。
天使みたいな優しい笑顔で。
…しかし、彼女らにはどうにも胡散臭さが漂っていた。
もちろんヤマも十分すぎるほど胡散臭い。
けれども、違う。
なんだか違うのだ。
…じっとみていたら段々とこの懲罰の法則がわかってきた。
林の先に美女が現れる。
男が全裸で追い掛ける。
しかし彼等が到達した瞬間美女は消えてしまう。
…慌てて辺りを見渡すと、果たして美女たちは彼等がもといた場所にいつのまにか移動しているのだ。
なんつーえげつない裁きなんだ。
ていうかこいつらアホか!
私は苦笑しながら振り返ると、羅刹天は変な顔で揺れていた。
…そして水翁はいなかった。
何故なら彼は美女を追い掛けていたからだ。
「なんで!」
私は叫んだ。
羅刹天は変な顔のまま揺れ続けている。
そして喉の奥から絞り出すような声で呟いた。
「…ここは…本来…男鬼がいたときから…男にしか効かない地獄だったので…つまり男子禁制…でしたので………くっ」
「あっ羅刹天ー!…ばかぁ!!」
羅刹天も美女を追い掛けにいってしまった。
さすがの羅刹天は瞬時に先から先へ移動している。が、やはり美女には間に合わない。
多分彼女等は存在しない、幻影みたいなもののだ。
出なきゃ羅刹天が間に合わないはずないもの。
(…っていうか…)
どうすんだ私。
わけのわからん地獄で美女を追い掛ける男共を見ているこの虚しさ。
…いや、でも元々の責任は私にあるのだ。
どうする?
どうすれば、二人を元に戻せるんだ?
私は若干アホらしく思いながらも真面目に考える。
水翁はともかく羅刹天はげんなりとした顔をしている。
…全部私のせいなのだ。
(…考えろ、考えろ…)
閻魔の私にしか出来ないことは?
その間にも二人はどんどん傷だらけになっていく。
どうすれば…
(…)
「…あ」
(「…閻魔は魔力が強すぎる。そんじゃそこらの人間じゃ、手におえないというわけだな。」)
(…)
…いやいや!無理だろ!!
私はかぶりをふって笑った。
お色気担当とは程遠い人生を送ってきたからだ。
…でも、正直それ以外なんも思いつかない。
私も大概あほだ。
「…」
どうしよう…
脱ぐとか?
いや、それはさすがに…
「…」
羅刹天にまた刃が刺さった。
私はもう決めていた。
「羅刹天、水翁!!」
二人は一瞬だけ私を見た。チャンスはこの一瞬だけだ。
「閻魔命令だ!来い!」
私は着物をひっ掴むとばさっと脱いだ。
我ながら男らしい。
でもいざ脱いでみたら下にはちゃんと薄地の白い着物っぽいものを着ていた。
こんなんで色気あんのか?
(なんかいっそうむなしい…)
私は切ない気持ちで前を向くと、いつのまにやら目の前には羅刹天が立っていた。
「え…わっ」
羅刹天はいきなり自分の羽織を脱ぎはじめた。
…それから私にばさっと被せた。そして
「何を!」
と叫んだ。
「お!気付いたか!」
「気付いたかじゃありません!そんなっ…」
「ん?」
ハッと私は大発見をした。
なんと羅刹天は顔を赤らめ私からそむけていたのだ。
なんたるこった!
…あれ、もしかしてこれ着物じゃないのか?
(…)
よく見ると水翁も羅刹天の後ろで倒れていた。
というか罪人まで倒れていた。
どうやらこれは下着っぽいものだったらしい。
が、現代っこの私には馴染みが薄くて特に羞恥心がわかない。
「…まぁいっか。てゆうかおかしいぞ。なんで罪人まで倒れてるんだ?ほら!水翁も!起きろ」
私は羅刹天の羽織を肩にかけてしゃがんだ。
そして水翁のほっぺをぺちぺち叩いてやった。
「そんなじゃ試合に勝てないぞ!」
「…試合って…なんですか」
水翁は顔だけ起こして私の腕を掴んだ。
条件反射で握手をしてみる。
「いや、生前よく助っ人で出た試合中にへばる奴がいたんだ。そんな時よくこうやってしごいてた。『私一人でも勝てるけど私一人じゃ試合にならん』っていうのが中学で伝説になっている私の名台詞ベスト3位なんだ。」
そう言ってははっと笑ったら水翁が胸に飛込んできた。
羅刹天が即座にひきはがす。
「水翁殿!」
「いやー椿様って意外とよく喋るんですね。なんかイメージと違いましたけどそこもまたいいですね。と思ってたら手を握りながら微笑んでくるからつい…」
「水翁」
「あっすみません。」
羅刹天は鬼の様な顔になっていた。
極楽の住人のくせにと私は笑った。
…さて、これからどうしよう。