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男女平等地獄絵図

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ヤマは私をぐっと抱きしめてドアを開け放った。
そしてそのままびゅんびゅんびゅんびゅん高速移動をしていく。
今回はさっきと比べものにならない位の距離があるみたいだ。
そのせいか私はだんだん車酔いみたいな気分になってきた。

「…ヤマ」

「なんだ?」

「…思ったんだけどな」

「うむ。」

ヤマは前を向いたまま返事する。私はヤマを見上げて呟いた。

「…こんな風に地獄を平行移動しているだけで極楽に行けるのか?」

「む?…あぁ、大丈夫だ。10000の控えの間を10000回繰り返し通るとな、そこはもう極楽なのだ。ただし一回でも一回りめと違う戸を開けてしまったらまた最初からやり直しだがな!」

ヤマは何故か嬉しそうに笑っている。
一方の私はこの飛行時間について考えて青ざめていた。

「…嘘だろ…」

「着いたぞ。」

「嘘だろ?!」

ガバッと顔を上げると思わず顔をしかめた。
まばゆい程の白い光。
地獄の薄暗さに慣れた身には何か心もとない気分にさせられる。
辺りは白以外なにもない。
…ただ一つ、私達が蓮池から頭をつきだしていること以外は。

「…なんだここ…あれ、体濡れてないぞ?」

「ここは地獄と極楽を結ぶ池だからな!奴らはしょっちゅう我々をここから覗いているのだ。」

「…」

なんかムカつくな。

ヤマは私の不満げな顔を無視して「たのもー」と叫んだ。
すると向こうの方から羅刹天がのそのそと歩いて来た。
なんだ、ゆっくりでも歩けるんじゃないか!
それにしてもどこから現れたんだ?

「…どうなさいました。」

羅刹天はさっきよりもずっと不機嫌な顔をしていた。
…私はそこでやっとハッとして、それからずきりと胸が痛んだ。
私はさっきのお披露目で大失態をしでかしていたんだ。
それに羅刹天は最初から反対していた。それが案の定あの結果だったんだから相当失望してるんだろう。
なんで私はそんなこと忘れていられたんだ。
有り得ない。
自分勝手にも程がある。


…ヤマは気にせずやぁやぁと掌を振った。
私は彼から顔を背けた。


「阿弥陀に会わせてくれ。」

「…は?一体どういう風の吹き回しですか。貴方からあの方にお会いしたいと仰るとは…。」

「まぁな。いいから取り次ぎ頼む。」

羅刹天は一切私と代替わりの儀に触れずに消えた。
そして帰って来た時には他に男を二人連れていた。


「む?護衛か。」

「万が一ということがございます。先程の儀式の貴方様の発言にいきり立っている血の気の多い輩も多いのです。…まぁ貴方だけなら心配は杞憂でしょうが一応あの方のご命令なので。」

一瞬の視線が私を刺した。
ほんのわずかなものだったのに、私には充分すぎるものだった。

…あぁ、私じゃ『太刀打ち出来ない』と。
そんなこと百も承知だ。

(…でも…これでも体育会系なんだぞ。)

私はうつ向いたままますますヤマに隠れた。
今この瞬間に透明人間になりたくてたまらなかった。

すると誰かがそろりと近寄って来た。

「失礼。お二方とはお初にお目にかかります、水翁と申します。以後お見知りおきを。」

「水翁…水天のところのやつだな。宜しく!私はヤマだ!好きな運動はバクテンだ!…で、こっちが」

ヤマは私の顎をくいと上げた。
ていうかヤマと私を知らないやつはもういない気がするんだけどな…。
いや、少なくともヤマは。

…前に立っていたのはクリクリとした巻き毛の背の高い青年だった。
多分護衛の一人で、もう一人の後ろに下がっているやつは柔道部みたいないかつい体格をしている。
それに比べて目の前に立つこいつはすらっとしていてとても護衛してくれそうには見えない。
犬みたいに無邪気な顔をしている。
モテソー。
…と、生前の私なら思いそうなタイプだ。
明らかに女慣れしてそうなタイプだ。
でも極楽に女はいないからそんなことはないのか。

水翁はじっと私を凝視した。


「…お美しい。」

「へ?」

「…儀式では遠すぎてよくわからなかったが、成程これは…。」

「…」

「水翁。」

羅刹天が冷ややかな声をあげた。
警告みたいに。

「私はお前を水天殿から預かっている身。それ以上身のほどをわきまえない発言をすれば何をするかわからんぞ。」

「これは失礼!」

水翁は全然悪びれていない笑顔で後ろへ下がった。
私はぼへっとつっ立っていた。

うっ美しい…?
どうにも照れるな。
いいや、お世辞だってことはわかっている。
でも私だって一応女なのである。
それにしてもヤマを横にしてよくも私を「美しい」なんて言えたもんだ。
確かに着てる服は変だけれど。

上をちらりと見上げると、「な・ま・え!」と口パクするヤマと目が合った。妙な威圧がある。

「…柳椿と申します。」

仕方なく頭をペコリと下げた。
本当は出来るだけヤマに隠れていたかったんだけど。

…なのにヤマはまだ私をこっそりとつっついてくる。
あろうことか背中に文字まで書き始めた。
いきなり黙りこくった私たちに極楽3トリオは明らかに不信感丸出しの表情を浮かべている。
私は焦る頭で必死に解読していた。

えーっと…

(「わ」…「ら」「え」…?)


笑え?

「…」

(なんのこっちゃ)

仕方なく私はへらりと笑う。
なんかこばかにした様な笑いになってしまった。

(うっ…)

案の定3人は怒りで真っ赤になっていた。

どっどうしてくれる!
ただでさえ好感度の低い状態だったのにもう終わりじゃないか!!


…キッとヤマを睨むとヤマはにやにや笑っていた。
そして
「さー行こうではないか!」
と叫んだ。
作品名:男女平等地獄絵図 作家名:川口暁