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男女平等地獄絵図

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閻魔のお仕事




「…椿、」

「…ん…」

「…弟君に会いたいか?」

「…そんなこと、出来るの?」

ヤマはにやりと笑う。

私は先程の代替わりの儀を思い出す。
怖い。
…こいつ…怖い。
でも、それなのに、それだから、ヤマがいれば怖くない。

ヤマは長く滑らかな髪を、白い腕ですらりとかきあげた。
恐ろしいほどに美しい光景。

「…本気か?」

ヤマは澄んだ瞳でじっと私の目を見る。目の奥まで。
そして言葉を続ける。

「…本気ならば、私は…」

「どっちに?」

ヤマの台詞を遮ってまで思わずついてでたその一言は、私をひどく後悔させた。

(どっちに?って…)


どっちに?って。

だけどヤマは怒らなかった。笑いもしなかったけれど。
ただ、優しく私の頭を撫でた。

「…どっちに?って聞くぐらいだから、答えはわかってるんだろう?」

「…」

私は…

私は…

私は、閻魔の部屋を見渡した。私が生きていた頃の部屋を。
古ぼけたボクサーのポスター。汚れた全身鏡。中学の卒業写真。布団に放りだされたジャージ。
そこに欠けているものは何ひとつなかった。
ただここは地球ではなく、奏もいないのだ。

「…私は」

「ん?」

「私は、本気だった。」

「…うん。」

「本当はな、…さっ沢谷…」

(あ…だめだ。)

また泣いてしまう。
こんな女々しい私、奏に見せられない。
奏に。

ヤマが優しく笑う。
私は心底ほっとしてヤマにしがみついた。出来るだけ涙が隠れるように。

「…さっ沢谷のこと…じゃなかった。好きじゃなかったんだ。ただの憧れだったんだ。…でも頑張ったんだ。頑張って、好きになったんだ。」

「…うん。」

私はヤマにしがみついたまま一気に言葉を吐きだした。取り戻すために。取り戻せるならば。

「本気だった。…愛してた」


「私は奏を愛してた。」






…愛してたんだ。本気で。


作品名:男女平等地獄絵図 作家名:川口暁