男女平等地獄絵図
(…あれ、奏…でっかくなってる…)
私が死んだ時奏は中学生だった。
あの日、奏はなぜだか私が沢谷に告白しようとしていることを知っていて、近所の中学の詰め襟の学生服で「フラれたら慰めてやるよ」と、私を送り出したのだ。
…でも今目の前の鏡に写る奏は身長が10センチくらい伸びている。
それに骨格もしっかりしていて、今の私と同い年位の容貌をしていた。
私はそれをぽけーっと見ることしかできない。
平べったい鏡に写った奏は、まるでテレビを見ているみたいで全然現実味がわかなかった。
奏はYシャツを着ていた。
季節は夏のようで、太陽が眩しい。
私が死んだのは冬だ。夏なんかじゃない。
わけがわからない。
(だって…私が死んでからまだ一日も…)
たってない、はず…
私はぺたりとしゃがみこみ、画面に写る奏を撫でた。
あの、優しく笑っていた時そのままの利発そうな整った顔立ち。…なのに、彼は全然違った。
だって…全く笑っていない。
全く。
完全に、奏の瞳は死んでいたのだ。
(…どうして…)
私は上手く体が動かせない。
その間に奏はどんどん道を進み、私が大好きだったあの家へ入っていった。
部屋の中はちっとも変わっていなかった。
奇妙なほどに。
まるで奏の体だけが時を進んだみたいだ。
奏は二階にある自分の部屋へ進んで行く。
ゆっくりと静かに。
…と、彼は突然に足を止めた。
…私の部屋のドアの前で。
(っ…)
彼は静かにキスをした。
私のいない、私の部屋に。
そっと両手をドアに沿えて、軽く、優しく。
ごく自然な動作で、まるで毎日の何気無い習慣みたいに。
…知らない間に私は叫び声をあげていた。
いつのまにか鏡は消えていて、私を取り巻くのは大量の視線だけだった。
誰もが私に何か喚きたてている。
…どうでもいい。
何も聞こえない。
聞きたくない。
死んでしまいたい。
…違う、死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
死にたくない。
…奏に会いたい。
誰かが私に何か固いものを投げてきた。
炎の様に熱いものも飛込んできた。
そしてその数は一人、また一人と増えていき、私は何やらめちゃくちゃになっているようだった。
…そうだ、こんな大切な人すら守れなかった私に地獄なんて守れるはずがない。
守りたくもない。
…帰して。
帰してよ!!!
…急に雑音が途切れた。
私は暖かい布に包まれていた。
ヤマだ。
ヤマの、腕の中にいるのだ。
ヤマは静かにはっきりと言葉を発した。
「椿は私が選んだ閻魔だ。…その閻魔に異存があるというならば、私にたて