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男女平等地獄絵図

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うわっという歓声。
私はその数に思わず目をそらす。

うっすらと瞳を開けると、思わず気絶しそうになった。

山…。

ヤマではない。正真正銘岩山だ。

私たちはそびえたつ岩山の上に立っていた。
そして、足下には何万とひしめく鬼、鬼、鬼。

「…っなっっんっ」

ヤマがただでさえ低めの声でさらにトーンを下げて囁いた。
それはうっとりする響き。
…おまけに私の耳元で。

「大丈夫だ椿。そのまま背筋を伸ばすのだ。」

私は言われた通りぐっと胸をはる。
…というか言われたことしかできないのだ。
自分の頭で考えることなんてできなかった。

私は震える指でさらにヤマの手をきつく握る。


…歓声がようやく落ち着いてくると、何人かの鬼たちが私たちの前にふわりと降り立った。
しかしよくみると、一番先頭は鬼ではなかった。
角がないし、第一男なのだ。

天国…じゃなかった極楽のひとなのかなぁと正常に働いていない脳で考える。

…その彼はショートヘアの癖っ毛で、目の細い猫みたいな顔をしていた。
なにやら巨大な丸い鏡を抱えてにまっと微笑んでいる。


後続はほとんどが鬼で、その青年にまさに「従えている」並び方だった。

隣でヤマが軽く会釈したので、それにならって慌ててぺこりと頭を垂れる。

群衆は今や皆黙りこんでいた。
そうやって周りが静かになると、なおさら緊張してくるのが人情ってもんだ。…いや、死んでるけども。

とにかくも私は緊張のあまりおそらく顔面蒼白になっていたはずだ。

そしてそのせいでまたもあんまし関係ない発見をしてしまう。


(うおおーっ緊張しすぎるっ…っていうか極楽のひとあんまりいなくないか?!)

そう、足下にはみる限り鬼しかいなかった。

(確か羅刹天は極楽・地獄双方から人?が集まるって言ってたけど…)

私はこのあと何をすればいいのかわからないまま何気無く上の方を見た。


(…えっ)



思わず大声をあげそうになる。

(いっいた…極楽メンバー…)



そうなのだ、極楽の者たちは皆「上」にいたのだ。

広間はぐるーっと山を囲う用に円柱状に出来ていた。
そしてその壁の部分にはたくさんの座席が彫りこまれていたのだ。

言うならば…オペラ座の一番よい席の様に。


皆が皆、上から軽く見下ろす様な感じで私たちを見ている。


(…なんか…むかつくな)

私はつい口を尖らせそうになるのを無理矢理抑えこんだ。

でもなんか、地獄見下されてるみたいな気がするぞ…?
気のせいか?


「それでは今から」

何処からか美しい調の様な声が響いた。
私はその心地好さに思わず身震いした。

何だか初めての感覚だ。
怖くて、でもずっと聞いていたくて…。

そう、まるでヤマみたいな…。


「代替わりの儀を始める。」



うわぁっと再び歓声が上がった。


…ちなみにこの声の正体が極楽のトップ、阿弥陀様だと知るのはもう少しあとのことだ。
作品名:男女平等地獄絵図 作家名:川口暁