男女平等地獄絵図
ヤマは大きくて白くて綺麗な指で私の手を握りしめた。
衣擦れの音が静かに反響する。
私の心臓は早がねを打ちっぱなしだった。
とにかく呼吸を整え、ふーっと前を向く。
助っ人で試合に出るときもこんな緊張しなかった。
むしろわくわくしてたのになぁ。
仕方なしに前を歩く手の持ち主の顔を覗く。
が、すぐに溜め息が漏れてしまった。
(…あぁ、いつ見ても綺麗だなぁ、この閻魔は。)
代替わりの儀が開かれる大広間へはこのくそ長い廊下を渡っていくらしい。
薄暗い、岩肌のおかしな廊下で、人一人くらいしか歩けない様な幅だ。
広間への入り口は遠すぎて、暗闇にぽつりと浮かぶ小さな窓に見える。
実はさっきからもうずーっと歩いてるのだ。
私はじれったくなってきた。
かすれた声でヤマに呟く。
「何でこんな長いの?」
ヤマは前を向いたまま微笑んだ。
「それはだな!緊張をしずめるためだ。」
「…。」
…ふーん、でも長いと余計に緊張しないか?
…と、言おうとしたけど違う問いが口からでてきた。
事実私は緊張しているからだ。
「なぁ、地獄ってヤマがつくったんだろ?」
「うむ」
「それに確か代替わりの儀って今回が初めてなんだろ?」
「うむ」
少し光が近付いてきた。
私はあまり関係のない話をひたすら続けることにした。
うぅっ
緊張で気持ち悪っ
「じゃあなんでそんなことまで想定してつくったんだ?」
ヤマはにこにことしている。
私は怪訝な顔をした。
廊下はもうすぐ終りを告げるらしく、窓が入り口サイズになってきた。
「…次の閻魔はな、人間と決めていたのだ。」
…
「え?!当初から?!」
そんな辞める気満々で地獄つくったのか!?
なっなんてやる気ない閻魔…。
私がげんなりした顔をしたらヤマにこづかれた。
ヤマはでも、やっぱり笑っていた。
「私はな、土台を築いただけだよ。」
「…はぁ?」
まばゆい光と声援が目の前に広がった。
私は思わず顔をしかめた。
ヤマはさらに私の手をきつく握り、ふふっと言った。
「さぁ、行くぞ、椿大王。」