男女平等地獄絵図
「どうやろか?」
八藤さんがふわりと私に着物を着せた。
何枚も何枚も重ねているのに、不思議と重くはない。
「…すっごい!」
思わず嬉しくて飛びはねそうになる。
いかんいかん。
閻魔たるもの、簡単に飛びはねたりしないものだ!…たぶん。
八藤さんは満足げに私の様子を見ていた。
一仕事終えた後の、誇りをもった眼差しで。
「ほな、はよ行きましょか。皆さん御待ちかねやろうし。」
八藤さんがにっこりと微笑む。
…?
「…えっと…皆さんて…誰ですか?」
八藤さんはかなり驚愕の表情になった。
一体全体なんなんだろうか。
八藤さんはそんな私に向かって嘘やろーっと軽く叫ぶ。
「聞いてはりません?…代替わりの儀。」
「…。…代…?」
八藤さんは私の間抜けな顔を見て、いやややわー、ヤマサマもオヒトが悪いと首をふった。
かなり焦ってる様子だ。
何やらまたもヤマは何か重要なことを私に話していなかったらしい。
「…えっと…何処から話したらええんやろ?」
小首を傾げる仕草がいちいち美しい。
鬼ってすごいなぁ。
呑気な私はしみじみと八藤さんを見つめていた。
…その時だった。
「椿様。」
「うわっ」
突如羅刹天が目の前に現れ、私は泡を吹きそうになった。
なんなんだ!
…羅刹天はそんな私の様子を完璧に無視し、事務的に猛スピードで話し始めた。かなりせっぱ詰まった話かた。
…???
「…代替わりの儀とはつまり簡潔に言うと王位継承の儀式の様なものです。貴女方は今から元閻魔、現閻魔として冠の交換をせねばなりません。実際には接吻を行った時点で継承は完了しているのですが、これはつまり形式的な天界全土への新閻魔お披露目式のなのです。極楽、地獄、全ての鬼及び神々がその儀に訪れます。この儀をいかに成功させるかで、地獄の総司としての力量をみなに見定められることになります。」
…
(…なっ)
なっ
なっ
なんだって?!
そそそんなそんそんな恐れおおいっ荷が重いっ
うわぁどうすれば一体どうすりゃいいんだ?!
だいたい私たった今閻魔の自覚をしたばっかりでっ…!
私はパニックになり開いた口が塞がらない。
…力量?神様?!
「さ、椿様早く。」
羅刹天がぎろりと急かす。
ちょっちょっちょっと待ってくれ!
いくらなんでもっ…
…発狂しそうになった時だった。
「ダメダメ、羅刹天!」
…あ。
この、ふざけた様な明るい声は…。
「ヤマっ…!!」
っ
…腰が、抜けた。
あまりの美しさに。
ダサい服を脱ぎ捨てたヤマは、瞬きをするのも惜しいほどの光を放っていた。
…いいようのない、完璧な美しさ。
言葉通り、何とも説明し難いその美しさは、やはりもう全く人間には見えなかった。鬼にさえ。
…腰を抜かした私を立たせ、ヤマは不敵に笑った。
「女の子に不安を植え付けてどうする?ちちちっこれだから極楽の輩はっ。まるで男子校の男子ではないか!!」
羅刹天すら固まってパクパクとしている。
どうやら彼もヤマの正装を見たのは初めてらしい。
さすがの八藤は着替えさせた本人なのかはしらないが、固まってはいなかった。
多少かちこちになってはいたが。
「…や、やま…」
「行くぞ、椿。私がついてる。」
ヤマがにこっと手を差し出した。
俄然勇気がわいてきた。
なんでかわかんないけど、この人がいれば大丈夫な気がする。