男女平等地獄絵図
代替わりの儀
私はむせび泣いていた。
まさかこんなことになっているなんて思いもしなかった。
いやに重い、どっしりとした閻魔の冠がまるで手錠みたく感じる。
滑らかな肌触りの、せっかく八藤さんが用意してくれた着物も、今では単なる布切れのようにしか感じられない。
周囲の突き刺す様な視線の海なんかももうどうでもよかった。
ただひたすら叫び出したかった。
「…椿」
優しい声がする。
「…ヤマ…」
ヤマは不思議なくらい静かに私を見ていた。
気が付くと、私は閻魔の部屋にいるのだった。
閻魔の部屋は、生きていた頃の私の部屋と全く同じだった。
汚れた全身鏡やら、古ぼけたボクサーのポスターやら。
だからちっとも気付かなかったのだ。
あまりに違和感が無さすぎて。
…私はやっと少し正気に返り、ヤマに謝った。
鏡を覗いた瞬間に泣き叫んだ私を、唯一かばってくれたヤマに。
「…ごめんなさい…」
声がかすれる。
あぁ、今すげー顔してそうだな、私。
…ヤマはどすんと畳の上に座り、手を広げた。
私は反射的にヤマの胸に飛込んだ。
ヤマはそのままよしよしと言って、私を優しく抱き締めた。
「…椿、」
「…ん…」
「…弟君に会いたいか?」
私は思わず息を止めた。
そろりと、ヤマの顔を見上げる。
そこには、悪魔の様に、天使の様に、神の様に美しい顔があった。
完璧な作品の様な。
「…そんなこと、出来るの?」
ヤマは、整った唇でにやりと笑った。
私は少しぞくりとし、またさっきの代替わりの儀を思い出してしまった。
(…もしかしてこいつ、実は一番怖いやつじゃなんじゃないのか?)