男女平等地獄絵図
大広間は薄暗く、ぼんやりと浮かぶ鬼火で照らされていた。
紅くゆらりゆらりと動めく火。
一人の、明るい薄茶の髪をした鬼がキセルを深く吸い込んだ。
ふわっと口から煙をだす。
隣に立っていた真っ赤な髪の、少女の様な容貌の鬼が吐きだされた煙をうっかり吸い、咳き込んだ。
「ちょっとこんな至近距離で吸わないでよう。」
大きな瞳に涙がうっすらと溜る。
茶髪の鬼は艶やかな表情でイシシシっと悪戯っこの様に笑った。
「だぁからあんたはおこちゃんなのよ。それじゃ出世は一生無理ね。」
赤髪の鬼がむくれる。
広間には何千もの鬼たちがザワザワと新たな閻魔の登場を待ち望んでいた。
…もちろんこの二人もそのなかに含まれる。
「別に出世なんてどうでもいいもん。霧柳姉さんは上昇思考が高いから。…ね、霧生姉さんは新しい閻魔さんってどんな人だと思う?」
上目使いで鬼は聞く。
霧柳(キリュウ)はキセルを口元へ運びながら視線を空中に投げ掛けた。
「…そうね…まず器量よしなのは間違いないわね。ただでさえ鬼って美人なもんなのにそのトップにたつ閻魔が不細工だったらやる気なくすじゃない。あとは、才能。ヤマサマは元々神様だったからそりゃ力はあったけど…噂が正しければ今度の閻魔は人間でしょ?相当霊力が強いんじゃない?…あともうひとつ大事なのは…あ、葡萄酒ちょうだい」
霧柳が余った片手を上げ給仕係を呼びとめた。
豊かな巻き髪がふわっと揺れる。
霧柳はくぴっと音を立て酒を一口飲み干すと、赤髪の鬼を見下ろした。
「あれ、どこまで話した?」
「もうっ。新しい閻魔大王についてよっ。…それにしても何で急に代替わりの儀なんてやろうと思ったのかしらね。冥府を創ったのヤマサマでしょ?そんな力があるのに何も今辞めなくても…」
鬼は唇を噛み締め下をむく。その姿を見た霧柳は笑う。
「さあ、その気まぐれなとこがあの方の魅力だから。…孔煉はほんとヤマサマが好きよねぇ。」
言われた孔煉(コウレン)は顔を真っ赤にする。
髪も顔も血のように紅くなった。
「もうっ。…いいから早くもうひとつの大切なことを教えてよっ」
「はいはい、もうひとつはね…。」
霧柳はニッと笑い、
「閻魔としての覚悟よ」
と言った。