男女平等地獄絵図
掴んだ瞬間、私は知らない部屋に来ていた。
しばらく何が何だかわからずにぼうっとする。
(…ついさっきまでは確かに、椅子の前に…いたよ、な…?)
しかし、もうそこはきらびやかな衣装部屋だった。
ずらーっと続く着物の波、波、波。
紅、萌葱、蘇芳、朽葉、緋…
様々な色の織物たち。
私はぼんやりとそれらを見つめた。
思わず口から溜め息が漏れ出る。
「…綺麗…」
「ですやろ?…新しゅう閻魔はんは山吹花菱石畳文固織物メインにしよかなぁ。赤色輪無唐草もええなぁ。えらい美人さんやし!」
「?!誰っ」
ぐるりと振り向くと羅刹天ではなく、黒髪を美しく結った鬼が立っていた。
もちろん女だ。
「あっれ羅刹天は?!」
「もうとっくに帰らはりましたよ。」
鬼はくすくすと笑い声を上げる。
中国風の服と和服を合わせた様な、名前忘れたけど歴史の資料集で見覚えのある服を着ていた。
すっとした糸目に真っ赤な唇。白い肌によく似合う。
背は私より少し低い。
「えーと…ここはどこですか?てゆうかあなたは誰ですか?」
私は半分パニックになりつつ質問する。
なんでこう地獄って見知ったやつがすぐ消えるんだ!
「いややわ、あの人何も言わずに行かはったん?…しゃあないなぁ…ここは見てのとおり衣装の間や。ほな、服決めたらうちがすぐ化粧の間連れてきますね。」
にこっと微笑む。
何だかわかんないけど可愛いぞ。優しいし。
私がきょときょとと世話しなく布や服を見回っている間に鬼は手際よく動き回っていた。
「はい、ちょっと失礼。」
腰にくるっと巻尺をあてる。
「うわぁ腰が細いなぁ。」
鬼は次々と私に布をあてていった。
歌うように作業は進む。
「あの…」
私は彼女の仕事を邪魔しないか心配だったけど、やっぱり名前くらい聞くことにした。
「ん?」
「お名前は…」
「うち?皆には八藤(ヤツフジ)呼ばれてます。いつも八藤模様着てるから。」
またくすくすと品よく八藤は笑った。
そして突然パンっと手を合わせた。
「はい!布は決まった。ほな後はうちに任せて化粧の間行きましょか。」
八藤は布をかきわけ小さな扉を見付け、くるりとドアノブを回した。
…その先には、あの見覚えのある控えの間が待っていた。
私は未だに頭がついていけていない。
「こっちやよ。」
八藤がかちゃりと右手の扉を開いた。私はなされるがままだ。
そこには…
「な、なぜ?!」
八藤が立っていた。